経済的自由のススメ ~そのあと~

経済的自由を得て現役引退したあとの生き方

投資家が理解しておくべきアマゾン(AMZN)の本質

ちょっと前に「本質を見て投資しよう」ということを書きました。

本質を見れば自信を持ってリスクを取れるし、リターンも上がる

その中で「普段どんなことを考えてどんな行動をとっているかは経営理念や戦略を見ればわかる」と言ったのですが、今日はその具体例として、Amazon.com, Inc.の経営方針について今までの株主への手紙をもとに解説します。

Amazonを持ってる人、買おうかなぁと思ってる人、Amazonがどういうやり方をしている会社なのか知っておくと長期保有の心構えになりますので、是非参考にしてください。

It's All About the Long Term(長期視点が全て)

CEOジェフ・ベゾスの株主への手紙には、毎年必ず1997年の株主への手紙が最後に添えられています。20年前に示した方針を共有し直して確認するためです。

1997年というのは上場した年なので、これが最初の株主への手紙なんですが、ここでベゾスは「我々の成功指標となるのは長期的に向上されていく株主価値である」と述べています。

そして、「長期視点を重視するため、決断や選択が他社とは異なることもある」と指摘し、実際に「当社のやり方が自分の投資方針と合っているか、改めて確認していただきたい」と株主に呼びかけています。

具体的には以下のような感じのポイントを挙げています。

  • 顧客志向を貫く
  • 短期的収益やウォールストリートの反応を考慮するのではなく、長期的に市場をリードするための投資をおこなう
  • 市場をリードするためのチャンスがあれば、「上手くいくものもあれば上手くいかないものもあるだろうが、どちらのケースでも学びがあるはず」という信念のもと、大胆な投資決断を下す

つまり、長期的に株価を向上させる可能性があるのなら、短期的に株価に悪影響が出る可能性があってもたとえ失敗するかもしれなくてもどんどんチャレンジする、というスタンスです。

そういう意味ではいわゆる「堅実的」な会社ではないので、それを承知の上でAMZNに投資していただきたい、と毎年繰り返して言っているわけです。

It's Always Day 1(常にチャレンジし、安定を求めない)

ベゾス氏が使う表現に「Day 1」と「Day 2」があります。Day 1というのは、様々な可能性に満ちた初期であり、成長期を意味します。一方、Day 2というのは事業が安定して大きな成長がなくなった成熟期を指します。

1997年の手紙で、彼はこの「Day 1」という言葉を使って「インターネットはまだまだこれからだ、そして上手くやればAmazon.comもまだまだこれから可能性がある」と述べていますが、その後の株主への手紙でも何度も「まだまだDay 1だ」と言い続けてきました。

そして、20年後の2016年の手紙で「Day 2というのは『停滞』だ。そして停滞は『時代遅れ』につながり、それはその後苦しく耐え難い『衰退』となり、最後に『死』がくる。だから常にDay 1なのだ」*1と延べ、「どうしたらDay 2に突入しなくてすむか常に考えている」と言っています。

そして具体策として以下を挙げています。

常に顧客のことを考える

競争力、製品、テクノロジー、ビジネスモデルなど、何を重視するかによって企業経営のやり方は大きく変わってくるが、顧客を重視して顧客のニーズを先回りして満たすのがDay 1の活力を保つ方法として一番である。

そのためには、辛抱強くテストを繰り返し、失敗から学び、いろいろ仕込んでおいて、顧客の反応が良い部分に一層力を入れていくことだ。

(ちなみに、2000年までは顧客の「選択肢」と「利便性」を追求するやり方でしたが、2001年の株主の手紙で「選択肢」「利便性」に「低価格」という柱を加えてやっていくと述べています。)

手段と目的を取り違えない

良いサービスを提供するためには良いプロセスが必要である。だが、企業組織が大きくなるにつれて、決まった手順を踏むことが結果よりも重要になってしまうことがある。よって、プロセスを活用できているか、プロセスに使われているだけになっていないか確認することが大事である。

市場調査や満足度アンケートなどもそうである。新しいサービスや商品を生み出すときは特にそのような市場調査に振り回されてはならない。

(この辺はスティーブ・ジョブズと考え方が似ていますね。)

世の中の流れを受け入れる

機械学習やAIなど、世の中の大きな流れをすぐに受け入れることができない企業はそのままDay 2に突入してしまう。世の中の流れと戦うのは未来と戦うことと同じだ。逆に、世の中の流れに乗れば追い風を受けることができる

(そしてAmazonは実際、Prime Airのドローン配達、レジがないAmazon Go、アレクサを利用したAmazon Echoなど消費者に見えるものから、需要の予測、商品の検索ランキングやおすすめ品、不正検出、など消費者から見えないものにまで、機械学習やAIを利用してきています。)

鬼速で決断する

Day 2企業の決断の仕方はクオリティが高いことが多いが、その分遅い。Day 1企業でいるためには、クオリティが高い決断を鬼速で下さなければならない。そのため留意すべきなのは以下のようなポイント。

  • 全ての決断に使える汎用手順はない
  • 決断は一度決めたら変更できないものではなく、必要に応じて変更するもの
  • 必要な情報が70%ほど集まった時点で決断する(90%まで待っていたら遅すぎ)
  • 決断が間違っていたらすぐに正す(これができれば最初の決断が間違っていても深刻なことにはならない)
  • 意見が一致しない場合は、「同意できないがやろう」で実践する同意を得る

(ベゾス氏自身が「同意できないがやろう」と言うこともよくあるそうです。)

We'll Take the Cash Flows (利益よりもキャッシュフローを重視)

ベゾス氏は「一番重要な財務指標は利益でも増益率でもなくて、フリーキャッシュフローである」とし、「1株あたりのフリーキャッシュフローを長期に渡って増加させることをAmazon.comの財務目標とする」と何度も述べています。

これはAmazonが「成功とは長期に渡って株主価値を上げていくことである」と定義しているためであり、株の価値というのは将来のキャッシュフローの現在価値であり、将来の利益の現在価値ではないからです。

将来の利益も重要だが、将来のキャッシュフローの1要素でしかない、という考え方です。

この辺に関しては、2004年の株主への手紙で「人を瞬間移動させる装置を発明した起業家」という架空の例まで持ち出して熱心に説明しています。

まとめ

ざっくりわかってもらえたでしょうか。

Amazonは「安定株」になることを忌み嫌い、決断スピードを重視し、情報が足りなくても全員が同意しなくても大胆にリスクを取っていくことをモットーとした企業です。

これまでも常識破りのことをたくさんしていますし、実際に上手く行かなくて損切りした事業もたくさんあります。そういう意味では、Amazonは投資家から見ると好みがはっきり分かれる投資案件かもしれません。

実際「収益を全部事業に再投資し続けている様は狂気」みたいなことが言われたりもしていますし。

ただ、このような大胆な経営の裏には、実は20年間も貫いてきた信念と方針があったりします。また、これはすべて最終的な目標である長期的な株主価値の向上のためですから、あえて言うなら「狂気」でなくて「確信犯」でしょう。

ですので、Amazonに投資するか決める際に考えるべきなのは、(1)Amazonの信念と方針が自分に合っているのか、(2)Amazonがその信念と方針を遂行できる企業だと思えるのか、の2点なのではないでしょうか。

両方に「Yes」と言えるのであれば、今後Amazonが話題を引き起こすようなことをしてその結果株価が上下しても冷静に長期保有できるはずですから。

*1:

ちなみに、そもそもこの話が出たのはベゾス氏が社員とQ&Aを行ったときに「Day 2ってどんな感じのことを言うんですか?」という質問があったからです。このときの彼の回答(=上で述べた訳)に対する社員たちのリアクションからも、いかに「Day 1」というコンセプトがAmazonに浸透しているか分かります。短い動画で、英語も難しくないので是非見てみてください。