経済的自由のススメ ~そのあと~

経済的自由を得て現役引退したあとの生き方

NextEra Energy($NEE)のマニアックな解説

こんにちは~、今村です。

ちょっと前にこんなツイートをしたんですが、

実はですね、NextEra Energyは今村がフロリダに住んでた頃にお勤めしていた会社です。8年ほど勤めてました。

リーマンショックの影響であたしが所属していた課が丸ごと切られたという話をしましたが、あのときの勤め先はここでした、ええ。

今はどうなのか知りませんが、当時は年金積立のマッチングが現金じゃなくて株式で支給されていたので、$NEEも(自分で買ったことはありませんが)会社に在籍していた当時からずーっと保有しています*1

……てことで、せっかくなので、NextEra Energyの紹介でもしておこうかなと思います。ツイートした記事以外でも最近はNextEra Energyが出てくる記事をチラチラ見かけるし、なんか注目されてるみたいですしね。

勤めてたのはもう10年くらい前の話だし、機密情報を持っているというわけでもないですが、元社員として知ってることを交えて書いておくので、再生可能エネルギーや蓄電池関連に投資している人や投資を考えている人は、よかったら参考にしてくださいませ。

NextEra Energyの概要

NextEra Energy, Inc.は、電力会社や再生可能エネルギー事業者を子会社に持つ、フロリダの持株会社です。こういう組織になっています。

出典:NextEra Energy Annual Report 2018(PDFが開きます)

FPL(Florida Power & Light Company)

南フロリダをテリトリーとする電力会社です。

500万件以上の個人や法人に電力を供給していて、規制されている電力会社としてはアメリカ最大級です。

もともとFPLがあり、それが事業拡大し続けた結果できたのがNextEra Energyです。FPLは今でもNEEの営業利益の6割を担っています。

NEER(NextEra Energy Resources)

FPL Groupの再生可能エネルギー部門としてFPL Energyが設立され、風力発電でアメリカ最大手となり*2、のちにNextEra Energy Resourcesと改名されました。

現在、NEERはアメリカ各地とカナダで風力、原子力、太陽光、天然ガス、石油発電所を建設・運営する卸電気会社となっています。今では太陽光発電でもアメリカ最大手となり、蓄電システムも提供しています。

ちなみに、FPL GroupがNextEra Energyになったのは、FPL EnergyがNextEra Energy Resourcesと改名された1年後くらいの話です*3

NEECH(NextEra Energy Capital Holdings)

NEERのクリーンエネルギーの販路を拡大するため、NextEra Energy TransmissionやNextEra Energy Servicesという他の子会社も設立されました。前者が北アメリカで送電システムを開発・建築・運営・維持し、後者が電力が自由化されている北アメリカ地域で電力の小売業を行っています。

そしてNEERとこれらを全部まとめて保有するために設立されたのがNextEra Energy Capital Holdingsです。

NextEra Energy Partners($NEP)

NextEra Energy Partnersは、$NEEとは別に$NEPとして上場していますが、NEERの子会社です。

基本的にNEPRは、1)NEEの再生可能エネルギー発電施設を買い取り*4、2)そこから得るキャッシュフローで配当を出し、3)投資家から資金を集める*5という役割を担っています。

一方、NEERは発電施設をNEPに売ることでさらに発電施設を建設する資金を得ています。

Gulf Power Company

フロリダ北西部をテリトリーとする電力会社です。ジョージア州の電力会社Southern Company($SO)から買収したばかりです。

顧客数は46万件ほどなので規模はそれほど大きくありませんが、NEEのフロリダのテリトリーを拡大する形になっています。

NextEra Energyの今までの成長

一応今までのリターンをS&P500と比べて見てみるとこんな感じです。

(青=NextEra Energy、オレンジ=S&P500)

過去10年

過去3年

2019年

リターンも悪くないし、安定感がありますね。

NextEra Energyの強み

では、なぜNEEはリターンも悪くなくて安定感があるのか?

公益事業+再生可能エネルギー事業の二本立て体制

上で見た通り、NEEは、FPLとGulf Powerを含む規制された電力事業と、NEE Resources・Transmission・Servicesを含む自由化された電力事業の二本立てになっています。そして、この体制自体が「悪くないリターンと安定感」を生み出すポイントになっています。

前者の公益事業が安定的な収益を生み出し、後者の再生可能エネルギー事業が成長を生み出せるからです。

しかも、二本立てではあるけれど、ノウハウや技術は大きく重なっているので、前者で長年積み重ねてきた送電の技術や品質みたいな基本ノウハウは後者で再生可能エネルギーを販売する際の武器になり、後者で新しく開発した再生可能エネルギーの技術は前者で再生可能エネルギーの割合を増やす原動力になっています。

なので、公益事業が再生可能エネルギー事業に安定感を与え、再生可能エネルギー事業が公益事業の成長を促しているという部分も大いにあります。

安定のFPL

先に述べた通り、FPLは料金規制がある側の電力ビジネスです。

料金規制というのは、具体的には

  • 数年ごとに「Rate Case」と呼ばれる料金を決定する公聴会が開かれ
  • FPLが先数年の予算案とこれまでの実績を提示し
  • 公益事業委員会(PSC)が一般市民などの声も聞きながらそれを検討したうえで
  • FPLの電気料金のレートを決定する

というプロセスで行われます。

PSCの目的はできるだけ良いサービスをできるだけ低い価格で住民に提供することなので、ここではFPLの実績が決断の大きな要因になります。そして、FPLの顧客満足度はアメリカ南部でもずっとトップクラスです。

J.D. Powerによる個人のお客様満足度調査(左)と法人のお客様満足度調査(右)↓

出典:2019 Electric Utility Residential Customer Satisfaction Study | J.D. POWER2019 Electric Utility Business Customer Satisfaction Study | J.D. POWER

さらに、料金のレートもFPLはフロリダの民間電力会社の中でずっと最安のポジションを保っています。

出典:2018 Comparative Rate Statistics (by PSC)(PDFが開きます)

市営や組合の形態をとっている電気サービスを入れてもFPLはフロリダ内で1、2位を争う安さです。

つまり、PSCとしてもFPLの予算案には文句をつけにくいということです。

また、そもそもレートは資本利益率が9.6%~11.6%になる計算で決められるので、きちんと計画通りに物事が進めば一定の利益は保証されているようなものなんですが、FPLはこの「きちんと計画通りに物事を進める」というのが上手い会社です*6

なので、資本利益率が11%くらいのところで承認されたとしても実行力がマズければ結果が9%台で終わる可能性もある一方、FPLはわりと許される資本利益率の上限に近いところで実際に利益を出すパターンが多いようです。

あと、これはNEEの実力とは関係ないんですが、フロリダは経済も人口も拡大傾向が強い州です。だからテリトリー自体が広がらなくても顧客数は伸び続けています。

電力会社をバックに持つ再生可能エネルギー事業

これは「二本立て体制が良い」をもう少し掘り下げた話になります。

風力発電や太陽光発電は自然の状況に依存するため、発電量をコントロールしにくいという問題があります*7

なので、電力会社レベルで風力や太陽光を送電網に組み込む際は、発電量をコントロールできる他の発電施設と組み合わせたり、蓄電システムを設置したりすることが必要になるんですが、この辺のノウハウを現在進行形で実践・改善しているのがFPLというわけです*8

おそらく、ですが、再生可能エネルギーの組み込み方という点で、FPLという大手が行っている最先端の事例と実践のデータを提示できるのはNEERの大きな強みなんじゃないですかね。

特に、蓄電システムは個人宅やビジネスでの設置よりも「Front-of-the-Meter(=電気の検針メーターの前)」と呼ばれる電力会社側での設置が大きく成長すると予想されています。

出典:The battery decade: How energy storage could revolutionize industries in the next 10 years

だとしたら、「電力会社部門もあり、蓄電システムも提供している再生可能エネルギー会社」というのはこの市場に売り込む際の最強のポジションになり得るのではないかと。

このような組み合わせの体制の会社は他の再生可能エネルギープレイヤーの中にはあまりいないですしね*9

連携を効率化させる人材育成

話は変わって、NEEに関する記事を読んでいると、経営陣を「ベンチ要員が充実」と評していることがたまにあります。

では、なぜベンチ要員になり得る人がたくさんいるのかというと、NEEには「Rotation」と呼ばれる慣習*10があるからじゃないかなと思います。

一定のレベルの管理職まで行ってRotationに選ばれた人には、他の部や課の同レベルの管理職の業務をOJT的な形で順に学ぶ機会が与えられます。1つの部署に1ヶ月とか2ヶ月とか滞在して業務を学ぶんですが、複数の部署を続けて一気に回るので、全部終わるのに何ヶ月もかかるという大掛かりなものです。

誰かがRotationに行ってしまうとその人のポジションは長期間空いてしまうので、代打が入ります。他の部署の管理職レベルの人が代打でやってくることもよくあります。

実際、今村が在籍していたマーケティング部でも、部長が産休後そのままRotationに突入する形で1年くらいいなくなったので、違う部署から代打の人が来ていました。

そんな感じで、一定の管理職以上の人はお互いの部署の経営を実践レベルで知っていることが多く、ちょっとくらいなら代打もできちゃう勢いなのです。 

また、専門職に対しても、担当の部署やプロジェクトが変わると内容に応じてOJTを1週間くらいかけて集中的にしてもらえる「Onboarding」という慣習がありました。

今村はRotationは経験しませんでしたが、Onboardingは何度もしてもらって社内の様々な業務を学びました。マーケティングアナリストだったくせにコールセンターとか発電所とか営業とかITとかの業務の知識が多少なりともあるのはこのおかげです。

NEEが様々な部署を連携させて物事を進めていくのが上手いのは、裏にこういう文化があるからじゃないかなと思います。

ハリケーン対策と復旧作業体制

フロリダはハリケーンの通り道となることが多い州で、実際NEEには(というかFPLには)周到なハリケーン対策と復旧作業体制のプランがあります。

これもなかなか面白くて話そうと思えば結構話せるんですが、今改めて株価の動きをハリケーンの被害と合わせてざっと見てみたところ、ハリケーンの被害はあんまり株価に影響していないようでした。

影響があんまりないというのもある意味すごいし、安定の理由のひとつになりそうです。

では、なぜあまり影響がないのか?

まず第一に、上で話したFPLの予算案にハリケーン対策プロジェクトがしっかり盛り込まれているというのがあります。

設備の耐久性を上げるとか街路樹を常にきちんと剪定しておくとかそういうのですが、今まで低コストで良いサービスを提供してきた実績があるため、この辺りにお金をかけてもPSCや住民の理解を得やすいのです。

第二に、FPLには復旧作業の費用に充てるための積立資金があります。こちらも予算に組み込まれている項目です。

ハリケーンが多い州の大手電力会社が災害保険を買おうとするといくらかかるのかは知りませんが、自社で積立をして自己保証する形をとることでコストをかなり下げていると聞いています。 

まとめ

……てことで、昔勤めていたことがあるNextEra Energyについて、役に立つかどうかは別として、マニアックな解説をしてみました。

もともと大学ではホテル経営学を学び、卒業後はリゾート関係の会社で勤めていたので、今振り返っても、電力会社で働いてたなんて我ながら変な経歴だなぁ、人生どこでどんな知識を拾えるかわからないもんだなぁ、としみじみ思います。

でも、こういう知識が積み重なって、投資家としての今の自分がいるのかもしれません。

みなさんは、自分の勤め先を投資家目線でマニアックに解説できますか?

*1:厳密にはリストラ後時点で $NEE のポジションが大きすぎたので半分くらい売りましたが、残りの半分は10年以上経った今でもそのまま放置しています。

*2:社員だった頃、よく「フロリダが拠点なのになんで太陽光がメインじゃないんだ?」と聞かれましたが、フロリダは湿度が高く雲が多いので、その分効率が劣るんですね。カリフォルニアやニューメキシコのように乾いていて雲がない場所でやれば効率は上がるんですが、乾いている地域では砂埃でパネルが汚れることが多く、水不足なので洗うコストもバカにならないという問題があったりします。

*3:前後関係はうろ覚えですが、FPL GroupがNextEra Energyに改名された頃に、FPLが石炭火力発電所の建設を提案するも住民に大反対されて見送るという出来事がありました。この「当時の最新技術では石炭が一番妥当なオプションだったにも関わらず、民意を得られなかった」という事件が、NEEをさらに再生可能エネルギー方面に向かわせることになったんですが、このときの幹部の切り替えの速さには社員だったあたしもびっくりした記憶があります。

*4:最近はNEE以外からも買収してるみたいです。

*5:再生可能エネルギー事業に特化していて、$NEEと比べても配当率が高いという位置づけです。

*6:どこがどう上手いのかは勤めてた今村にもピンポイントで説明できないんですが、NEEはエンジニア気質がとても強い会社で、その良いところが全部出てる、みたいな感じです。計画自体もかなり周到にやっているだろうと思います。

*7:今後、蓄電がもっと大規模なレベルで発達すれば状況は変わると思いますが、発電はまだ基本的にリアルタイムで供給を需要に合わせなくてはならないビジネスです。

*8:ここ数年、今まで他のオプションと比べて効率がいまいちとされていた太陽光発電施設をFPLのテリトリーでも増やしています。これを理由に料金レートも引き上げされました。

*9:もともとソーラーパネルのメーカーであるとか、タービンのメーカーであるようなケースが多い気がします。Berkshire Hathawayの子会社であるBerkshire Hathaway Energyは電力会社のMidAmerican Energyを子会社としているのでNextEra Energyに似ていますが。

*10:どういう条件を満たした人がどの時点で対象になるのかなどの規定は聞いたことがないので、人事部が主導になっている正式な人材育成プログラムではなくて、上司の判断で調整が行われる個別のキャリアプランニング的なものと認識しています。