ちょっと前ですが、こういうツイートをして、
個人的にはTJMaxxとRossも大衆アパレル部門でイケてる銘柄だと思う
— 今村咲 (@saki_imamura) 2019年11月20日
その直後に、TJ MaxxとかRossに馴染みがある日本人ってあんまりいないかもなぁ、紹介の記事でも書くかなぁ……と思ってこれを書き始めてたんですが、温泉に行ったらなんだかどうでも良くなってしまって放置していました。
でも、今朝ツイートをするためにニュースを眺めてるときに「ディスカウント小売業者のBig Lots*1($BIG)のQ3の業績が良くて云々……」って記事をちらっと見かけて、あー、やっぱりTJXとRossの記事出しておこう、と思ったので、終わらせて出しときます。
ここ数年の小売業界の変動って結構すごいですよね。
でも、TJXとRossって、そんな中であまり変化しないままなぜか成長しているという、ちょっと興味深い案件だったりするんですよ。
小売業界に興味がある人は話のタネにでも読んでいってください。
概要
TJX CompaniesもRoss Storesも、有名ブランドの衣服、バッグ、靴などを大幅に値下げして販売するディスカウントショップを経営している会社です。
The TJX Companies, Inc.($TJX)
↑メリーランドにあったTJ Maxx。
「TJ Maxx」と「Marshall's」の名前でアメリカやヨーロッパでディスカウントショップを展開しています。また、有名ブランドの家具やインテリア商品を大幅ディスカウントで提供する「HomeGoods」「Home Sierra」「Winners」をアメリカとカナダで展開しています。
創業:1987年
本社:マサチューセッツ州フレーミングハム市
CEO:Ernie Herrman
↑入るとこんな感じ。Rossより小綺麗だけどわりと無造作な陳列。
↑バッグのコーナー。わりとテキトーにかけてある。
Ross Stores, Inc.($ROST)
↑シアトルの街なかにあったRoss。店舗の内部は警備員のお兄さんが怖くて撮れなかったけど、「これでいいの?」状態だった。笑
「Ross Dress for Less」の名前でアメリカで中間層をターゲットにした店舗を展開しています。似たようなビジネスモデルでRossより若い層や所得が低い層をターゲットにした店舗「dd's Discounts」を展開しているのはRossの子会社です。
創業:1982年
本社:カリフォルニア州ダブリン市
CEO:Barbara Rentler
今までの成長
だいぶ前ですが、こんなツイートをしました。
Amazonに押されて従来の小売業が悪戦苦闘しているが、衣服をメインとしないでネット販売などの変化に対応しているWalmartやTargetはそれなりに健闘していて、そうでないJCP、Nordstromなどのデパートがだだ下がりしている、という図。https://t.co/LlaVzl7OLD pic.twitter.com/BsTYztR1ug
— 今村咲 (@saki_imamura) 2019年7月24日
JC Penny、Nordstrom、Macy'sなどのデパートが苦戦しているなか、食品や日用品がメインでネット販売にも対応しているWalmartやTargetは健闘しているという話でした。
TJXとRossは食品や衛生・洗剤などの日用品の販売はしていません。どちらかと言うとデパートに近い商品のラインナップです。ネット販売はしてるようですが、たいしたことないみたいです。
ですが、上の図にTJXとRossを足してみると、両社ともWalmartと似たレベルで健闘しているのが見て取れます。
と言うか、期間をもっと長くして過去10年間で見てみると、RossとTJXはむしろWalmartよりも大きく成長していたりします。
ちなみに、RossなんかはこんなランキングにIT企業と肩を並べて入ってたりします。
2000年から保有していた場合のリターンで見た銘柄ランキング
— 今村咲 (@saki_imamura) 2019年11月10日
Netflixが1位かと思いきや、トップはMonster Beverage。2000年時点で100ドル投資していたら62,444ドルになっていた計算で、Netflixの2.5倍以上。
Rossとか、IT系じゃないものも入っていて面白い。https://t.co/iPPqvblpmS pic.twitter.com/imetGMvC8p
なんだこりゃ?って感じじゃないですか、これ?笑
強さの秘密
一体なぜこの2社は強いのか。
TJXとRossのビジネスは、1)メーカーから過剰在庫や訳あり商品を安く買い取り、2)定価から大幅値下げして各店舗で売る、というシンプルなモデルで成り立っています。
でも、よく見るとなかなか良くできたモデルだったりします。
メーカーとの関係
通常、小売業者はメーカーに商品を発注する際、
- 返品の特権
- 販促費を加味した割引
- 一通り揃ったサイズや色
- 各店舗への商品配送
- 長い支払い猶予期間(Macy'sなどだと120日)
などを要求します。でも、TJXやRossは
- 返品の特権なし
- サイズや色が全部揃っていない売れ残り商品でも訳あり商品でもOK
- 流通センターへまとめて商品配送
- 短い支払い猶予期間(30~40日以内)
という感じで、メーカーが処分したい在庫をメーカーにとって有利な条件で引き受けます。そしてその分商品を安く仕入れているわけです。
また、TJXやRossの店舗ではどのブランドが売られているか宣伝しておらず、どのメーカーがどんなものを処分しているか大々的にはわからないので、ブランドのイメージを守りたいメーカー側としても商品を処分しやすい仕組みになっています。
このようなメーカーとの関係がすでに出来上がっているので、他のディスカウント業者が入り込みにくいというのもあります。
店舗
TJXもRossも、わりと広いけれど雑然とした、ブランド物を扱ってる感じがしない店舗を展開しています。
上で述べた通り商品の宣伝は店舗でしていないので、マネキンなどもないし、ディスプレイらしいディスプレイもありません。基本的には棚やラックがずらーっと並んでいて分類分けだけしてある商品が無造作に置いてあるだけというパターンの店舗の方が多いです。
カットソーもセーターもみんなハンガー掛けだし、靴売り場とかもそこにあるサイズしかないので自分で勝手にためし履きするんですが、みんなテキトーに棚に戻してるのでごちゃごちゃになってたりします。
要は、その手のことには一切お金をかけていない、ということです。確信犯的に。
ちなみに、個人的にはTJX系の店の方がやや小綺麗にしている確率が高いという印象ですね。Ross系はまじで「こんなんでいいの?」っていう店舗があったりします。
立地としては、街の中心部に小さめの店舗があることもありますが、どちらかと言うとスーパーなんかが入っているショッピングセンターにあることが多いです。車で乗り付けてすぐ買い物できるパターンです。
集客
TJXもRossもテレビやラジオなどで「ブランド物をお値打ち価格で!」みたいなざっくりとした宣伝はしています。
アメリカ国内でも店舗はわりとあちこちにあるし、実際、ブランド物を安く売っている店として良く知られています。
でも、TJXやRossの客足が止まらないのは、宝探し的な要素があるからです。
- どんなブランドのどんな商品があるという宣伝が全くないので、何があるのかは行ってみないとわからない(同じ市内でも店舗Aと店舗Bでは在庫が違うことも多い)
- その時その時にメーカーが処分したものが入ってくるので、行くたび商品のラインナップが違う
- ざっくり分類されてはいるが、基本的に商品は無造作に置いてあったり掛けてあったりするだけなので、文字通り「掘り出し物」を探さなくてはならない
- そして実際にブランド物が安いので、何か見つかれば満足感がある
今村は個人的には宝探し要素はまあどっちでもいいんですが、
- それなりのものを安く買える
- 服、靴、バッグ、雑貨など、一通りのものを1か所で買える
- ショッピングセンター的な場所にあるので、モールのように巨大駐車場に車を停めて店まで頑張って歩く必要性がない
という、時短的な理由でわりと利用していました。
TJXとRossの複占的関係
TJXもRossもメーカーの処分品(=限定品)を扱っているので、そもそも同じ系列店舗でも在庫が大きく違ったりするんですが、TJXとRossもやっぱり多少異なるラインナップになります。
また、これは両社が意図的にやってることなのかどうかは知りませんが、TJXとRossはお互いわりと近い場所に店舗を構えているパターンが多く、同じショッピングセンターの敷地内にあるケースもよくあります。
なので、TJX系の店とRoss系の店をはしごする客がかなり多いです。
つまりお客は「片方に行ったらついでだからもう片方も行く」とか、「片方に気に入るものがなかったからもう片方にも行ってみる」とか、「あのショッピングセンターは両方あるからどちらかに欲しいものがあるはず」みたいな思考になるわけです。
そういう意味では、TJXとRossは競合と言うより仲良く複占という感じがします。
在庫管理
両社ともコンスタントに多くのメーカーから買い取りを行っています。
実際にどうやって管理してるのかは知りませんが、その時にある限定的商品から売れそうなものを選りすぐって仕入れてきて、たくさんある店舗に振り分けているわけなので、その辺の経験値やシステムはなかなか真似できないもののはずです。
あと、流行ものだけを仕入れているわけではなく、定番というかベーシックなデザインのものも季節に合わせてのちのち販売するため仕入れているんですが、それでもその辺の小売業者より在庫の回転率が早く、生鮮食品も混じっているTargetのようなレベルの回転率だったりします。これもなかなか真似できないことです。
景気変動の影響
ディスカウントストアってわりと景気の影響を受けにくいことが多いんですが、TJXとRossもわりとそんな感じです。
まとめ
てことで、店舗に行かなきゃわからない宝探し的な要素を持つディスカウントストアという、世の中の実店舗離れのトレンドとは別の場所にいる TJX Companiesと Ross Storesの紹介でした。
余り物とか訳あり商品とかで在庫が構成されてるし、在庫の回転率もかなり早いので、実際問題としてオンラインストアってTJXやRossにはハードルが高いんじゃないかと思います。
でも、実物見ないとわからない部分があるからこそ客は実店舗に来るんだろうし、在庫の回転率が早いからこそ客は飽きずに何度も店に足を運ぶんじゃないですかね。
ちょっと前にもこんなニュース記事があったけど、
サンクスギビングとブラックフライデーの売上は実店舗からオンラインストアに大きくシフトし、その対応ができていたかどうかで小売業者のパフォーマンスが決まった。
— 今村咲 (@saki_imamura) 2019年12月2日
勝者
Walmart、Target、Best Buy、Lululemon、Nordstrom
敗者
Ulta、Gap、L Brands、Bed Bath & Beyondhttps://t.co/NJP9gGX2DH
はなからそういう戦いに参加していない小売業者もいるということです。
ビジネスって面白いですね。
*1:Big LotsはTJXやRossにちょっと似てますが、品揃え的に全く同じ土俵にいない、というのが今村の印象です。