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なんとなくでも知っておくべき相続税の計算の仕方と生命保険の活用法

前回、「生前贈与は、相続遺産を減らして相続税を抑えるのにも、お金が一番必要な時に前倒しで財産移転してもらうのにも使えるから知っておくべき」という話をしました。 

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今日はその続きとして、そもそも相続税はどのように計算されるのかについてと生命保険の活用法についてまとめます。

まだまだ相続は関係ないと思っていても、どう相続財産を分割すべきなのか、生前贈与とは別に税額軽減使えるものは何かをざっと知っておくと早めに計画できるのでオススメです。

結構長くなってしまったので、贈与税のしくみはどうなっているのかと贈与税がかかってくるレベルで生前贈与する場合はどこまでを贈与税対象にすべきなのかの計算の仕方は次回にします。

相続税の計算の仕方

相続税は、法定相続人の内訳や実際に遺産がどのように分割されるかによって変わってきます。また、相続税の計算をするにあたって適用できる特例や税額軽減もあります。

そういう意味で、生前贈与をするかにかかわらず、計算の仕方をざっと理解しておくと相続人の間でどの遺産をどのように分けるべきかを考えるときにも役立ちます。

(1)財産の集計

まず相続財産の評価をして総額の計算をします。

  • 土地:固定資産税評価に所定の倍率を乗じて計算。相続時に住んでいる居住用の宅地には「小規模宅地の特例」を適用して100坪までは評価額の80%を減額できる(20%だけを相続税の課税対象にする)。相続税の申告期限内に適用を受ける旨の相続税の申告書を提出する必要あり
  • 家屋:固定資産税評価によって計算
  • 有価証券:相続開始日の終値、その月の終値の月中平均額、その前月の終値の月中平均額、その前々月の終値の月中平均額、の4つのうち一番低い額
  • 現金・預金:相続開始日時点の残高
  • その他、生活用動産(自動車、家財、骨董など):相続開始日時点の時価、調達額、減価償却価格など
  • 生命保険金等:受け取った生命保険金から「500万円×法定相続人数」で計算した控除額を差し引いた残額

(2)相続時精算課税適用財産の加算

相続時精算課税の適用をうけていた親族がある場合は、その生前贈与額を合計して(1)に足します。前回説明したように、相続時精算課税制度をつかった生前贈与は非課税ではなく相続税の先送りです。

(3)債務及び葬儀費用の控除

死亡後に支払われた光熱費・電話料金、税金などの費用、そして特定の葬儀費用を(2)で計算した額から控除します。初七日以降の法事の費用、香典返しの費用、墓地の購入代金などは葬儀費用には含まれません。 

(4)生前贈与額の加算

被相続人が亡くなる前の3年以内に暦年課税による生前贈与を受けていた法定相続人がいる場合、その贈与額に対する年間基礎控除は無効になるので、(3)で計算した額に足します。 

(5)基礎控除額の控除

ここまできてようやく基礎控除額を差し引きます。

前回も述べましたが、基礎控除額は「定額控除の3,000万円+比例控除の600万円×法定相続人数」で計算します。法定相続人が3人の場合は「3000+600×3=4800万円」となります。これを(4)で計算した額から控除します。 

(6)相続税の総額の算出

あとは(5)に税率をかけて相続税の総額を計算するのかなと思うところですが、実際は(5)で計算した相続財産を法定相続分で按分してそれをもとに各相続人の相続税を計算し、それを合計して相続税の総額を算出します。

相続税の税率と控除額は以下の通りです。

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例:夫、妻、子供2人の家族構成で夫が亡くなり、課税対象の相続財産が1.6億円だった場合

  • 妻の法定相続分(遺産の1/2)=8,000万円
  • 子供の法定相続分(残りの1/2を2人で分けるのでそれぞれ1/4)=4,000万円×2
  • 妻の相続税:8,000万円×30%-700万円=1,700万円
  • 子供の相続税:4,000万円×20%-200万円=600万円、600万円×2=1,200万円

相続税の総額:1,700万円+1,200万円=2,900万円

(7)各相続人の相続税額の算出

法定相続分とは違う分け方をする場合、(6)の総額を実際に相続する財産の割合に応じて按分します。

例:妻が1億円相続し、残りの5,000万円を子供2人が均等に分ける場合

  • 妻の相続税:1億円÷1.6億円=62.5%、2,900万円×62.5%=18,125,000円
  • 子供の相続税:5,000万円÷1.6億円=37.5%、2,900万円×37.5%=10,875,000円(2人で均等に分けるため5,437,500円ずつ)

(8)税額控除額の控除

ようやく最後のステップです。

(7)で各相続人に割り振られた税額からその相続人の状況に応じて適用できる控除を差し引きます。

  • 贈与税額控除:生前贈与を受けていて贈与税を既に払っている場合はその分を精算するかたちで控除できます。
  • 配偶者の税額控除:配偶者は法定相続分または1億6,000万円までは相続税がかかりません。上の例で言うと、妻は法定相続分(1/2)より多い1億円を相続しますが、1億6,000万円以下なので相続税18,125,000円全額を控除することができるわけです。また、一次相続(この例では夫から妻への相続)で最大限の1億6,000万円枠を使うことで子への相続を二次相続(夫亡き後の妻から子への相続)まで先送りし、一家全体の相続税の負担も先送りすることも可能です。これは厳密には節税にはなりませんが。
  • 未成年者控除:相続人が未成年者の場合、その者が成人に達するまでの年数1年につき10万円の税額控除を受けることができます。例えば、相続時に17歳10ヶ月だった場合、17歳として計算し、3年×10万円=30万円の税額控除になります。
  • 障害者控除:相続人が障害者の場合は、その者が85歳に達するまでの年数1年につき10万円の税額控除を受けることができます。特別障害者の場合は年数1年につき20万円の控除になります。
  • 相次相続控除:10年間に相続が立て続けに起こった場合、相続税を減額することができます。前回の相続で被相続人(今回亡くなった人)が相続税を払っていることが条件になるので、父が亡くなったあと10年以内に母が亡くなったが母は一次相続で配偶者控除を使って相続税を払っていなかったという場合は使えませんが、祖父のあとに父が亡くなり父は相続税を払っていたという場合に、経過年数、相続財産、支払った相続税などに応じて控除を受けることができます。

生命保険の活用法と注意点

相続税の計算ステップ(1)で触れましたが、財産を生命保険金の形で受け取った場合、「500万円×法定相続人数」を課税対象の相続財産から控除することができます。

でも生命保険を利用することでそれとは別のメリットを得ることもできます。

納税資金を確保できる

前回の記事で「例えば都内に家と土地があっただけで基礎控除を超える相続になることがある」と書きましたが、実際、不動産が相続財産の大部分を占めるケースは多いようです。

そしてそういう場合に相続人が困るのは「どうやって相続税を納める資金を用意するか」だったりします。不動産は簡単に換金できない場合が多い一方、相続税は現金で一括納付するのが原則だからです。(*延納や物納も条件により一応可能)

そのようなケースでは保険金として現金が入ってくるようにしておけば困らないというわけです。

代償分割がしやすくなる

不動産が主な相続財産になっていて相続人が複数いる場合、財産の分割が難しくなることがあります。土地と家を売却しない限り財産の分割ができない、というようなことが起こるからです。

そのようなケースでは、例えば自宅を相続することになっている長男に生前贈与として親が保険料を贈与して被保険者を自分、保険金受取人を長男とする生命保険に入っておけば、相続時に長男が他の兄弟に現金を支払って自宅を相続する形を取ることができます。

生命保険を使ううえで注意すべきこと

生命保険を相続税対策に使うと便利ですが、注意も必要です。

  • 加入する保険の種類:一生涯保障が続く終身保険でないと満期が来てしまう可能性があります。その場合の満期返戻金は相続税の対象にはならず、所得税または贈与税の対象になってしまうので注意。
  • 保険の契約者と保険料負担者:税法的に重要になるのは「誰が保険の契約をしたか」ではなく「誰が保険料を負担したか」です。被保険者と保険料負担者が被相続人で保険金受取人が相続人の場合は相続税の対象になりますが、被保険者が被相続人で保険料負担者と保険金受取人が相続人の場合は所得税の対象になります。被保険者が被相続人で、保険料負担者が被相続人以外で保険金受取人である相続人とも違う場合は贈与税の対象になりますので注意。
  • 受け取れる死亡保険金の額:相続が発生した時の保険金の用途と控除額を考慮して、いくら受け取る必要があるのか試算してから契約しましょう。
  • 保険金受取人:たとえ受取人が複数になっていても代表者に全額振り込まれてしまうケースが多いので、複数の相続人で保険金を分割したい場合は別々に保険契約をして揉め事を回避するのが無難です。

中間まとめその2

今回は内容的にあんまり面白くなかったかもしれないですが、なんとなくでも知っていると実際に自分が相続のことを考える際にどこから手を付けていいのか分かりやすくなるはずです。

また、生命保険の件も含めて、どうして早めに考えておくと有利なのかも分かるのではないでしょうか。

参考資料

 自分から言い出しにくい場合はこういうのがいいかも……。

マンガでわかる 親子で読む 絶対もめない! 相続・生前贈与

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 生前贈与に関してはこれすごくいいです。

もっと上手に財産移転を!  生前贈与の基礎知識

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知らずに脱税していて……ということを避けるために読むといいです。

本当はもっとこわい相続税

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第3弾、書きました。

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