経済的自由のススメ ~そのあと~

経済的自由を得て現役引退したあとの生き方

Amazon Freshに行ってきました(遅ればせながらレポート)

こんちは~、今村です。

Amazon Fresh(もともとのデリバリー事業)を立ち上げたHerrington氏が、Flexportに引き抜かれて辞職したDave Clark氏の後任としてAmazon StoresのCEOに任命されましたねー。

今村のことをツイッターでフォローしてくれてる人は知ってると思いますが、今村は5月に2週間カリフォルニアに行ってました。そのときついでにAmazon Fresh(現在の実店舗)でもお買い物体験してきました。

これ、実は結構面白かったんですよ。で、今朝のニュースを見てブログ記事にしようかなという気になったので、書きます。

ちなみに、4年前にシアトルに行ったときはAmazon Goでお買い物してレポートしたんですが、

www.saki-imamura.com

実際Amazon FreshはAmazon Goより面白かったです。

もともとブログ記事を書こうと思って行ったわけじゃないので、あんまり写真がないんですが、まあその辺は我慢して読んでいってください。

ちなみに今村が行ったのはロング・ビーチ店です。

ロング・ビーチ店、果物売り場

Amazon Freshの概要

と、その前に、Amazon Freshの経歴をざっとまとめておきます。

  • もともと食品デリバリー事業として2007年に立ち上げられる
  • その後は、プライムユーザーがネット注文しておいてピックアップできるAmazon Fresh Pickupを始めたり、ミールキットの販売を始めたり、いろいろなことを特定地域限定で試しつつ迷走
  • 即日デリバリー事業のPrime Nowが食品部門にも進出したことで内部対立発生
  • 2017年にWhole Foods買収が決定し、Amazon Fresh対Prime Now問題が食品販売全体の戦略という視点で顕著化
  • Bezos氏の命令でAmazon FreshとPrime Nowのトップがプレゼン対決
  • Prime Nowが勝利しAmazon Freshを吸収するが、Amazon Freshブランドをキープ
  • Whole Foods店舗を利用する戦略を試すも様々な課題が浮上し、別の店舗形態を模索
  • 2020年にAmazon Fresh実店舗1号店をカリフォルニアでオープン
  • 2022年5月時点でカリフォルニア、イリノイ、ワシントン、バージニア、メリーランド、ペンシルバニアで計30店舗展開
  • 2022年6月に5店舗追加発表

つまり、紆余曲折してきたけれど、今は急ピッチで新店舗をオープンしている状態というわけなんですね。そんなところにHerrington氏が登場したと。

とは言え、Whole Foodsは500店舗くらいあるはずなので、Amazon Freshの実店舗規模はまだまだではあります。

更に、Amazon全体の収益として見ると、実店舗部門は4%に満たない状態です。

実際、実店舗部門は、今まで迷走してる感が拭えないところもあって「金がかかる趣味」呼ばわりされたりもしています。

さて、Herrington氏は見返すことができるんでしょうか?お手並み拝見、楽しみです。

Amazon Freshの特徴

では、Amazon FreshはWhole Foodsや他のスーパーとどう違うのか?ですが。

スマートカートで買い物できる

Amazon Freshでの買い物が面白かった一番の理由はズバリAmazon Dash Cartです。

  • Amazonアプリでログインするので、買い物リストがそのまま使える
  • 支払いもAmazonアカウントに登録してあるもので自動処理するので、財布が要らない
  • レジを通さず買い物ができるので、並ぶ必要がない
  • オススメやクーポンも自動で出てくるので便利

Dash Cartを使いたくない人は、普通のカートもあるので大丈夫です。

今村が行ったときは、普通のカートを使っている人の方が若干多いかなという印象でした。

Amazonのオンラインストアで買った品を箱なしでも返品できる

Amazonロッカーが置いてあるスーパーはわりとあったりしますが、Amazon Freshではカスタマーサービスのカウンターがあって、そこで返品手続きをすることが可能です。箱なしでも可能とのこと。

今村が行ったときも、Amazonの箱を抱えて入っていく人がちらほらいました。

商品のピックアップができる

Amazon Freshの商品をネットで注文して、同じカスタマーサービスのカウンターでピックアップすることもできます。また、Amazon Freshデリバリーの拠点にもなっています。

Walmartなど、ネット注文してピックアップというパターンを可能にして、デリバリーの拠点にしている店は他にもあります。でも、Amazon Fresh店舗はWhole Foodsの既存店舗で試行錯誤したのちにその学びを活かしてデザインしたという経緯なので、ネット注文のピックアップやデリバリーに効率的に対応できるようになっているはずです。たぶん。

値段も品揃えもわりと普通

Whole Foodsは独自の基準を満たす自然食品を売りにしているいわゆるグルメスーパーなので、そういう系統の商品の品揃えは多いのですが、それ系に限られており、お値段もそこそこ高い位置づけになっています。

でもAmazon Freshの品揃えは普通のスーパー寄りです。Whole Foodsの365ブランド商品やオーガニック野菜、Amazonのプライベートブランド商品ももちろんありますが、他の一般的なメーカーのものもたくさんあります。

値段的にも、一緒に行った地元アメリカ人によると「若干高い気がするものもあるけど、ほとんど気にならないレベル」とのことでした。

Alexaがいる

店内のあちこちにAlexaがいました。

今村たちは使いませんでしたが、「卵はどこにあるの?」など、店舗に関する質問に対応できるようです。

Amazon Dash Cartの仕組み

ということで、Amazon側からするとDash Cartの導入は戦略の肝ではないかもしれないんですが、消費者、特にAmazonユーザーからするとAmazon Freshの大きな利点はDash Cartになりそうなので、仕組みをざっとまとめておきます。

まず、店内に入ると、Dash Cartが紙袋がすでにセットされている状態でこのように並んでいます↓

Amazon Dash Cart

写真の奥に見える通り、普通のカートを使っている人もいます。そしてDash Cartは普通のカートよりちょっと小さめでした*1

Amazonアプリを立ち上げてAmazon Fresh用のQRコードを表示し、画面の左側にあるスキャナーで読み取らせると、Dash Cartと自分のアプリが連動した状態になります。

画面はこんな感じ↓

Dash Cartのスクリーン

カートに入っているものと現時点での合計金額が左側に表示されます。右側にはオススメ品が何番の棚にあるかという情報とともに表示されます。買い物リストがある場合はAlexa Listで表示できるし、クーポンも表示できます。

そして、バーコードがついた商品をカートに入れると、カート内の前後にあるカメラがバーコードを読んで表示してくれます。

逆に、一旦カートに入れたものをもう一度出すと、再度バーコードを読んでその商品がカートにもう入っていないことをちゃんと認識します。

果物や野菜、お惣菜など、量り売りでバーコードがないものの場合は、「Add item with code」で売り場に表示されているコードを入力します。

バナナなど量り売りでなくて1本いくらみたいな場合は、コードを入力して本数も入力するんですが、カートはちゃんと計量して個数と重量がマッチしてるかチェックしています。賢いです。

常に総重量を計算しているので、バーコードがついていないものを何か取り出したり、バーコードがついているものでも読み取れない状態で取り出したりすると、総重量が変化したことを感知して「今、何か出しましたか?」と聞いてきます。賢いです。

そんなこんなで一通り買い物し終わったら、最後はAmazon Dash Cart Laneと記されたお会計ゾーンにカートを持っていきます。

Dash Cart用のお会計ゾーン

ここに入るとDash Cartはお買い物が終了したことを感知し、Amazonアプリ内に登録してある決済方法を使って支払いを自動で行います。そして、その場でレシートがAmazonアプリに紐づけされているメールアドレスに送信されます*2

これでお買い物終了です。買ったものはすでに紙袋に入っているので、そのまま取り出して持ち帰るだけです。

感想

最初はAmazonアプリでログインするやり方でちょっと戸惑い、サラダバーでは入力の仕方がパッとわからず*3、スムーズでない箇所もありましたが、一旦使い方がわかればDash Cartは簡単で、実際とても楽しく買い物できました。

これは便利です。

最近はセルフレジもかなり普及していますが、セルフでもレジはレジなので、面倒なんですよね。なので、このステップが丸ごとなくなるのは大きいです。普通のレジに戻れなくなりそうな勢いでした。今度どこかでレジで並ぶときは、確実に「ここにもDash Cartがあったらいいのに」と思うと思います。

Amazon Goもレジなしで便利な技術ですが、

  • 計量が必要な商品は難しいため、品揃えが限られてくる
  • カートに入っているものと合計金額の一覧がない状態で買い物して自動決済になるので、2、3点ほどの買い物なら良いが、大量の買い物には向いていない

ということを考えると、コンビニ形態には適していますが、スーパー形態には適していません。そして、コンビニ形態は車社会のアメリカでは向いている立地が少ないので、店舗拡大しにくいというのがあります。

あれほど話題になり期待されていたAmazon Goの店舗が思ったように増えなかったのは、この辺りが原因でしょう。一時期はガソリンスタンド事業にも手を出してガソリンスタンドと合わせることでAmazon Goを拡大することも検討されていたようですが、それくらいコンビニ形態はアメリカに適していないということです。

でもAmazon FreshとDash Cartなら拡大しやすいはずです。また、Whole FoodsでもDash Cartは簡単に導入できるのでないかと思います。

Dash Cartで買い物する人が増えれば、POSデータのクオリティも上がるので、そこからいろいろなマーケティング戦略も打てそうです。

ただ、今後Whole FoodsとAmazon Freshの棲み分けをどう上手く設定していくか、Whole Foodsを買収した意義をどう回収していくのか、というのは課題になるかもしれません。

なんにせよ、どうなるのか楽しみです。

*1:たぶん技術的な制限でこのサイズになったんだと思いますが、アメリカ人の買い物パターンという視点で見ると、もう少し大きい方が良い気がします

*2:ちなみに、この後スクリーンには満足度調査のアンケートが出てきていたので、「とても満足」と回答しときました

*3:コードが表示されているのに気づかず、最初は箱を認識するのかな?と思ったんですが、違ってました笑

ブランドが動詞化する条件

こんにちは~、今村です。

昨日、こんなツイートをしました。

で、なんとなくその後もいろいろ考えてたら、ちょっと書き出して整理したくなったので書きます。

人生の役に立つような記事ではないので、まあ読んでも読まなくてもどっちでもいいです。

でも、マーケティングとか英語に興味がある人にはまあまあ面白いかもです。暇つぶしの読み物としても悪くないかもです。

まず結論

暇じゃないから読みたくないけどなんとなく結論だけは知りたいという人がいるかもしれないので、今村説の結論を先に書いときます。

+++++++++++

ブランド名が動詞になる基本条件は4つ。

  1. そのブランド商品やサービスに新規性があり
  2. 結果、限定的な消費者行為や現象を引き起こすもので
  3. ある程度ヒットして普及しており
  4. ブランドのネーミング自体がもともと音的に動詞にしやすいものであること

すべてを満たす必要があるが、

  • 4だけ満たされていない場合は、ブランド名自体が動詞にならなくても、ブランド名から派生した動詞が生まれることがある

また、例外的に、

  • ブランドが引き起こす事象がとても特殊な場合は、音的にイマイチでも動詞になることがある

+++++++++++

以上です。

ここから先はたんなる事例の羅列です。

コメントはすべて今村個人の知識や意見で、なんの科学的検証もありません。

基本条件を満たして動詞になったブランド

Google

日本語でも「ググる」としっかり動詞になってますが、英語でも「Google it(ググれ)」という感じですっかり動詞として定着しています。

検索エンジンは一応Google以前にもいろいろあったので、新規性の条件が当てはまらないようにも思えるかもしれませんが、Googleの検索アルゴリズムは当時革新的でした。だから、他の検索エンジンとは違うという新規性があり、それが結果的にGoogleを検索エンジンのトップに押し上げました。

Googleという音も動詞にしやすかったと思います。

検索と言えば、Yahoo!も自社ブランドを動詞化しようとして「Do you Yahoo?」という広告を打っていたことがありました。でも定着しませんでしたね。

その理由には、Googleの検索革命のもとでYahoo!などの検索の新規性が一気になくなったというのと、Yahooという音自体にも動詞になる素質がなかったというのがあるんじゃないかと思います。

「Yahoo」って、何か他の単語を聞き取り損ねたかな?と思っちゃう音じゃないですか?「Did you yahoo?」と言われたら「Did I what?」と聞き返してしまいそうです。

Uber

Uberもわりとすぐに動詞になったブランドだと思います。日本でも「ウバる」という言い方を聞くようになりました。

アプリを使った配車サービスはそれまではなかった概念で、対応する動詞もありませんでした。だから「I'll get a cab by using the Uber App」みたいになっちゃうわけですが、それなら「I'll uber」と言っちゃう方が簡単だったわけですね。

じゃあなぜ、Lyftは動詞になっていないのか*1

これは「Lyft」が「Lift」と同じ音で紛らわしいからだと思います。「I'll lyft」も「I'll lift」も同じにしか聞こえないので、やっぱり「You'll do what?」と聞き返される羽目になりそうです。

Uberという名前はドイツ語の「über」から来ているそうですが、おかげで他の英単語と間違うような紛らわしさがなかったのかもしれません。

最近は、Uber Eatsを使う場合でも「I'll uber it」みたいな感じでUberを動詞にするのをよく聞きます。その時の文脈によってUberなのかUber Eatsなのか簡単に判断できて問題ないため、このような用途の拡大が起こっているんだと思いますが、今後Uberが処方箋の配達など別の分野にもビジネス拡大していったらどうなるのか、ちょっと注目です。

Zoom

Zoomはコロナのおかげであっという間に動詞になりました。

ビデオ会議自体はZoom以前からいろいろありました。なので、新規性は乏しいと言えば乏しいのかもしれませんが、今までになかったレベルでの用途が爆発的に増加したという意味で新規性の条件を満たしたような気がします。

あと、複数人が同時に同じサービスを使わなくてはならない、という意味で、Zoomが動詞になるのは必然的だったのかもしれません。参加者全員が「Zoomを使ってミーティングする」という情報を共有していないといけないわけなので。

実際、ビデオ電話が最初に出てきたころ主流だったSkypeも動詞になっていますが、あれはSkypeを使ったビデオ電話という意味の動詞になっていて、ビデオ電話すること自体を示す動詞にはなっていません。

昔はコピーをとるときにはコピー機のメーカーにかかわらず「Xerox this document」のような感じでXeroxを動詞にしていました。

また、FedExで何かを送る時の動詞になっている「fedex」についても、翌日配送という当時は画期的だったサービスを紹介したということで、年配の人の間では今でもどの業者に頼むかにかかわらず翌日配送することを指して「You can fedex it」みたいな言い方をする人がいます。

年配の人と言えば、掃除機メーカーのHooverもそうですね。どこのメーカーの掃除機を使うかにかかわらず、掃除機をかけることを「hoover」という人がたまにいます。

どのサービスを使うかがコミュニケーション上で重要になるZoomやSkypeではそのような動詞の一般化は起こらないでしょう。 

変形型の動詞になったブランド

Airbnb

Airbnbはこれまでになかった宿泊施設のオンラインマーケットです。ここ数年でかなり普及して、最近上場も果たしました。

でもAirbnbは動詞になっていません。「I do airbnb」みたいな感じで、Airbnbで宿泊するという意味の名詞として使われるのは聞きますが、「I airbnb」という動詞にした言い方は今村は聞いたことがありません。

これは音がまどろっこしいからですよね。Air-bee-n'-beeという発音になるので、動詞として言いにくいんじゃないかと思います。

代わりにたまに聞くことがあるのは「I'll air-bee」のような感じに「air-bee」と短縮する形です。これなら言いやすいです。

ただ、Yahoo!と似た感じで、air-beeという音がなんとなく紛らわしい気がしないでもないです。たぶんですが、「I do airbnb」と言う人の方が「I air-bee」と言う人より多いんじゃないかなと思います。

Twitter

Twitterもそれまでになかった形で独特のユーザー行動を大きく広めたサービスです。でも、Twitterは動詞にはならずtweetが動詞になりました。日本語でも「ツイートする」って言いますよね。ついでに言うと、ツイートという行動で生まれるものもtweetという名詞で表現されます。「Jack tweeted everyday. Usually three tweets a day.」みたいな感じです。

どうしてそうなったのかはちょっとググったらわかりました。

www.businessinsider.com

ざっくりまとめると、

  • もともとTwitter社はツイートすることを「twittering」と呼んでいた
  • でもイマイチだったので「twits」に変更
  • それを「tweet」の方が良いのでは?と再度変更

という経緯だったそう。

ちなみに、Twitterという名称には、もともとはスマホのバイブレーションをイメージして「twitch」を検討していたけれど、音的にイマイチだったので辞書で見つけた別の単語「twitter」に決めたという背景があります。

つまり「twitter」はTwitterが登場する前からあった言葉なわけです*2。でも音的にイマイチだったから「tweet*3になったということですね。

Zipper

ちょっと古いところで、Zipperもそのまま動詞にはならなかったけれど変形型の動詞「zip」を生んだブランドです。

 「zip」という単語自体はもともと存在していました。名詞にも動詞にもなり、意味もいろいろあります。その意味の1つが「ジジジという音」なんですが、新しいファスナーを開発したZipperが、ファスナーを閉めるときの音が「ジジジ」なのでその商品をZipperと名付けた、というのがZipperのが始まりです。

そしたらそれが大人気となり普及し、Zipperを閉めることを「zip」と言うようになりました*4

「Twitter」もそうですが、「~er」という単語はやっぱりそのまま動詞にするには音的に使いにくいんだと思いますね。

なんにせよ、Zipperから生まれた「zip」という動詞の面白いところは、「Zipperを閉める」だけでなくて「何かをしっかり締めておく」という意味にも使われるようになっていることです。「Zip your mouth」と言えば「黙ってなさい」という意味です。

また、「zip」はジェスチャーにもなってますね。何も言わずに自分の唇をジッパーで閉じるような仕草をすれば、「My lips are sealed=他言しません」という意味になります。Zipperすごいです。

動詞にならなかったブランド

Netflix

Netflixは今ではたくさんある有料ストリーミング配信サービスの1つですが、初期の頃はDVDの郵送レンタル事業を行って名を挙げた会社でした。

定額で決まった枚数のDVDを郵便で送ってもらい、レンタル期間も何もなく好きなだけ利用して好きな時に返送すると次のDVDをレンタルできるという、当時では画期的な、サブスクの先駆け的なサービスでした。流行りました*5

でも「Netflix」という言葉を動詞として使う事例は今村は聞いたことがありません。

なぜか。

これはまず「netflix」という単語自体に動詞になる素質がないというか、動詞にしにくかったというのがある気がします。

また、たとえ動詞になる素質があったとしても、「netflix」はたぶん動詞にはならなかったでしょう。

なぜなら、Netflixのサービスはストリーミング配信とDVDレンタルの2本立てだったからです。つまり「netflixする」と言っても、当時ではストリーミング配信を観ることを指すのか、DVDレンタルをすることを指すのかよくわからなかったということです。

今であればもうDVDレンタル事業はしていないので「netflixする」と言ったらNetflixで何か観ることだろうと見当がつきますが、ストリーミングで何か観る行為には新規性もなにもなく、どのストリーミングサービスにも通用する「watch it on demand」とか「stream it」というような言い方が定着してしまっています。

YouTube

YouTubeも、出てきた当時は新規性があり、大きく普及したけれど、ユーザーの行為が限定的でないためイマイチ動詞になれなかったという例です。

音的には動詞になる素質はあったんじゃないかなーという気がします。

とは言え、YouTubeは動詞にはなれませんでしたが、YouTuberという職業名は生み出しましたよね。

「特殊な行為を生み出して、その行為を行う人の名称を作ったブランド」というのも探せばいろいろあるかもしれません。

「Twitterをする人」という意味の「twitterer」を生んだTwitterもそうですね。そう言えば、日本語では「ツイッタランド」という言葉がありますが、英語ではあれは「Twitter+land」ではなくて「Twitter+universe」という発想で「twitterverse」と言います。

あまりにも特殊で動詞になったブランド

Amazon

ここまで挙げてきたのはブランドの商品やサービスが動詞になった例ですが、全く別で特殊なケースなのがAmazonです。

今村が初めてAmazonを動詞として聞いたのはほぼ3年前ですが、衝撃的だったのでツイートもしました。

 Amazonがヘルスケア業界に参入するというニュースがあったんですが、それを受けてとあるアナリストが「ヘルスケア業界がAmazonされる可能性がある」とコメントしていました。意味は上のツイート通りで、その日はヘルスケア株が軒並み下落しました。

その後も、Amazonが何か始めるとその業界が影響を受けるという文脈で「Amazoned」という言い方は何度も耳にしています。定着しているんだと思います。

ただ、Amazonは特定の業界をひっくり返すことを目的として事業参入しているわけではないので、能動態で「Amazon」と使われることはないですね。使われるのは受動態の「Amazoned」です。

よく考えると恐ろしい話ですよね。そういう意味では、Amazonはこの記事に挙げたブランドの中でも全く異色と言えます。

まとめ

一般的には「動詞化されるのはブランドの強さの証」みたいなイメージがあると思いますが、こうやって例を挙げて見てみると、強ければ動詞化されるというわけでもないことがよくわかります。

また、文中では触れませんでしたが、一般名称化すると商標権に影響が出たりするので動詞化を避けるケースがあるようです*6

とは言え、どういう形でブランドが社会で浸透していくかを考えるうえでは、ブランド名の動詞化はなかなか面白いアングルかもしれません。

どのブランドが動詞になるかを予想するのも結構楽しそうです。

Pelotonなんかは、今村個人としては動詞として使われているのはまだ聞いたことがありませんが、音的にも動詞になる素質があるんじゃないかなぁと思いますね。「I peloton everyday」とか、音的に全然違和感ないですし、むしろなんだかカッコよく聞こえます。

今後Pelotonに似たサービスが出てきても、「I kind of peloton, too(=わたしもPelotonみたいなのやってるわよ」とか言いそうですしね笑。動詞化される前に買収とかされちゃったら知りませんが。


*1:一部の人の間ではなっているのかもしれませんが、今村は聞いたことがないです。

*2:もともと動詞として「鳥がさえずる」「小刻みに震える」というような意味、名詞として「鳥のさえずり」「ハラハラ・ドキドキした状態」というような意味がありました。

*3:こちらも前から動詞として「弱々しくさえずる」という意味、名詞として「雛鳥や小鳥のさえずり」という意味がある単語でした。

*4:閉めることを「zip up」、開けることを「zip down」と言うこともあります。

*5:今村もサブスクしてました。

*6:Xeroxは一時期「コピーする=Xerox」にならないよう努力していたらしいです。

Google提訴の例で見た独占禁止法の基本

こんにちは~、今村です。

司法省がとうとう独占禁止法違反でGoogleを提訴しましたねー。

こういうのは大抵ダラダラ長引くので、今回もダラダラ長引くんじゃないかと思います。ただ、Microsoftという前例もあるし、グダグタ揉めても結局はあっけない結末になるという可能性もありそうです。

でもまあ、傍観者としては、独占禁止法に関するお勉強をしておくには良い機会かもしれません。

……てことで、独占禁止法の基本を今回のGoogle提訴の件を例にしてざっくりまとめておきます。

つい最近、下院司法委員会がGAFAの独占力を調査したまとめと対応案を発表しましたが*1、こういう話も独占禁止法について少しわかっていると判断しやすくなるはずなので、GAFAなど大手IT企業に投資している、またはしたいけれどあんまりわかってないかも……という人は、一応読んでおいてください。

わかってる人は……まあ読んでも読まなくてもどっちでもオッケーです。

今村個人の見解も最後に書いておきます。

独占禁止法のポイント

アメリカの独占禁止法(反トラスト法)には、シャーマン法、クレイトン法、FTC法、ロビンソン=パットマン法、合併制限法といろいろな規制が含まれていますが、ざっくりまとめると

  1. 1つの企業が(または複数の企業が価格設定するなど連携して)特定の市場を独占し
  2. 健全な競合を阻み
  3. 結果的に消費者の不利益となっている

という事態を避けるのが目的の法律と言えます。

昔は、独占と言えば、大手企業間で販売価格を決めて市場を独占してしまう、競合を買収して市場を独占してしまうなど、わかりやすいケースが多く、法的にはその辺りを禁止すれば良い感じでした。

もちろん今でもそのような行為は自動的にアウトです。

でも、事例が複雑化するにつれ、特定の行為を違法と定義するだけでは対応できなくなってきたため、消費者の不利益になっているかを分析して違法かどうかを判断するようになりました*2

つまり、連携して価格設定を行った、不当なやり方で競合を排除した等、明文化された違法行為以外の場合は、3で判断されるわけです。まあそれでも白黒つけにくくて難しかったりするんですが。

でもとりあえず上の3つのポイントを順に見てみましょう。

市場の独占

市場のどのくらいを占めていたら独占していると見なされるのか?

これについては、司法省が今までの判例をもとに「最低でも70~80%を占めていないと市場独占には該当しない」としています。

今回のGoogleの件では、司法省は「検索の88%、モバイル検索の94%、検索広告の70%をGoogleがコントロールしている」と言っていますから、この数字で良いのであれば、Googleはそれぞれの市場を独占しているということになります。

「この数字で良いのであれば」というのがポイントです。

なぜかと言うと、それぞれの市場をどう定義するかによって数字は変わるからです。

おそらく司法省は「検索=ブラウザでの検索」と定義して88%としているのだと思います。

でも、Googleはこちらのブログで「Googleの競合は他の検索エンジンだけではない」「人々はTwitterでニュースを、KayakやExpediaでフライトを、OpenTableでレストランを、オススメをInstagramやPinterestで検索している」「商品購買に関しては、アメリカ人の6割がAmazonでまず検索している」と反論しています。

このような他の検索の選択肢を入れたらGoogleが占める割合はもっと下がるはずだというわけですね。

ちなみに、AppleとEpic Gamesの論争でも、Epic側が「iOSという市場をAppleがApp Storeで独占コントロールしている」と主張し、Apple側は「iOSが嫌ならAndroidに行けばいい、ゲームアプリ市場はiOSだけではない」と反論しています*3

このように、市場をどう定義するかで独占の解釈も変わってくるわけです。 

競合の排除

不当なやり方で競合を排除したかに関しては、判断は比較的簡単なはずです。

証拠を揃えるという意味では簡単ではないかもしれませんが、不当か不当でないかはわりと明白なはずなので、やったかやってないかで判断ということになるのではないかと思います。

Googleの件では、司法省は「GoogleはAppleやAndroidのモバイル機器のメーカーや販売者と排他的な契約を結び、Googleの検索エンジンをデフォルトとして他社が競合できないようにしている」と主張し、例をいくつか挙げています。

これに対しGoogleは、

  • iOS:Yahoo!やBingも選択肢として提示されており、Googleの独占契約ではない
  • Windows:デフォルトはBing
  • Android:Googleのサービスを掲載する条件でAndroidを無料配布しているが、Googleの独占契約ではなく、他の選択肢も提示されることが多い

と反論し、どの契約も今まで何度も行われた独占禁止法の取り調べをすべてパスしていると述べています。

また、普通に考えたら、Googleの弁護士もMicrosoftの判例を勉強したうえで様々な契約書を作成しているはずですよね。

となると、司法省が新しい証拠や証言を入手して今までの理解を覆すのでもない限り、現行の法律では、Googleはマイナーな修正を命令されたりはするかもしれませんが、ビジネスモデルを大きく変えなくてはならないようことになる可能性は低そうです。

消費者の不利益

消費者の不利益は白黒つけにくい話です。

Googleの件では、司法省は「Googleの独占行為は、検索の品質を低下させることと検索の選択肢を減らすことで消費者に被害を与えている」と主張しています。また、「競合を抑制することで、検索サービスにイノベーションが起きにくくなっている」とも主張しています。

もしかすると司法省が言うようにそういう面もあるのかもしれません。

ただ、これを数値化してGoogleが反論できないレベルで証明するのは結構難しいと思います。

Googleも指摘しているように、Google検索がデフォルトになっている場合でも消費者は簡単に検索エンジンを変えることができる仕様になっていますし、GoogleがデフォルトでないケースでGoogleに変更している人もたくさんいるからです。

また、検索エンジンにイノベーションが起きていないとしても、Twitter、Instagram、Pinterest、Amazonなど他の検索方法は増加しているので、Googleにとっての競合が厳しくなっているだけで消費者の不利益にはなっていないという議論もできてしまいそうです。

さらに、たとえ一定の不利益が証明されたとしても、消費者の利益になっている部分もあると反論できます。

例えば、Googleは「GoogleのサービスをAndroidとバンドルすることでAndroidを無料提供でき、結果スマホメーカーは安くスマホを提供できるようになっている」と述べていますし、他にも「広告側で十分な収益を得ているから検索サービスは無料提供できている」などの主張もできそうです。そうなるとやはり、最終的に強制スピンオフのような措置に至る可能性はそれほど大きくない気がします。

ちなみに、Microsoftの事例では、一旦下級裁判所でスピンオフの命令が出ましたが、Microsoftが上訴して、やり方を変える諸々の妥協をして両者合意したため、スピンオフには至りませんでした。

Googleは今Microsoftの事例を復習し直しているはずなので、必要と判断すればもっと早々に妥協案も出してくるでしょう。

GAFAと独占禁止法の問題点

……とここまで、Googleの件を例に独占禁止法の基本をざっとまとめてみましたが、どうです、つまんなかったでしょう?笑 なーんだ、そんな感じなのか、と思いませんでしたか?

そうなんです、つまんないんです。たぶん。

じゃあなんで、そんなつまんないことを司法省はやるのか?

ここからは単なる今村の個人的見解ですが、これは時代の流れだと思います。

近年のGAFAに対する独占禁止法の取り調べの根本にあるのは、GAFAが民間企業としては力を持ちすぎてきているのではないかという漠然とした懸念です。

個人情報、人々の生活スタイル、ニュースなどの情報拡散、GAFAに依存するビジネスなど、多岐に渡っての影響力が大きすぎて、このまま放っておくとマズイんじゃないか、という懸念があります。

市場独占という懸念もあることはあるでしょうが、核心はそこじゃないわけです。

ただ、複雑すぎて、漠然すぎて、じゃあ核心は何なのか、何をどう規制しておくべきなのかと言われると、誰も明確にビジョンを出せない、というのが現状なのではないかと。

実際、そう考えると、「議会が何度も公聴会を開いてGAFAを招集するも、多くの議員はとんちんかんな質問しかできず何の解決にも至っていない」という状況も、「GAFAの事業を分割させようという案も、分割すべき明確な理由があると言うより、分割して小さくすればいろいろなことが解決するんじゃないかという曖昧な希望的観測で言っているようにしか聞こえない」という状況も説明がつきます。

下院司法委員会のGAFA調査も、今回のGoogle提訴も「精査して対策を考えたいが、適した枠組みもなければ、明確なビジョンもないから、とりあえず独占禁止法という枠組みで精査しよう」という動きに見えます。下院司法委員会や司法省が実際にそう意識しているかどうかは知りませんが。

何をどう規制すればいいのかわからないし、現行の規制には適切なものがない、でも不安はある、というのが問題なのだと今村は思います。 

GAFAと今後の規制

本質的な問題は市場独占ではなく、GAFAの影響力(とその力が悪用される懸念)なのだとすると、現行の独占禁止法の枠組みで議論してもあまり進展はない気がします。

ただ、話の流れによっては、ここから新しい規制案が出てくる可能性はあるかもしれません。

例えば、下院司法委員会が出した提言の1つに「プラットフォーム所有者は関連事業に参入できないようにする」というのがありましたが、今回のGoogleの件がきっかけで、これを法律にしようとする動きが強まるかもしれません。

現行の独占禁止法ではGoogle検索とAndroidを分ける判決まで持ち込むのはハードルが高い気がしますが、プラットフォームと関連事業を分けることが法律化されれば、GoogleだけでなくGAFA全社になんらかの分割を強いることが可能になります。

一方、話の流れによっては、Google側が懸念点を1つずつ潰して妥協案を提示することで、このまま何も大事に至らず一旦は終止符を打てる可能性もありそうです。

なぜかと言うと、まだ明確で有力なビジョンがないからです。

誰が一番最初に本質を突いて、みんなが納得するビジョンを出すかが勝負になります。

……たぶん笑

GAFAの経営陣の美意識

ところで、今後のビジョンも大事ですが、経営陣が今までどんな信念で何をしてきたかも大事です。

前回リーダーについて書いたときと、前々回CEOの評価基準について書いたときにもリーダーの美意識について触れましたが、「真・善・美」という美意識を持って行動している経営陣であれば、提訴されて取り調べを受けることになっても

  • そもそも法に触れることはしていない
  • 法で明文化されていない事柄に関しては、善悪で判断しているので、大抵問題にならない
  • 問題になった場合でも、判断の理由を説明できる
  • 間違いもすぐに認めて正すことができる

という確率が高く、逆に美意識がない経営陣は

  • 法に触れなければ良いという判断なので、グレイゾーンでギリギリなことをしていて問題になりやすい
  • 問題になった場合、法には触れていないという言い訳しかできない
  • 具体的な措置を強制されないと物事を正すことができない

という確率が高いからです。

規制や枠組みがまだないところで発展する新しい分野であればあるほど、リーダーの美意識が重要になるというわけです。 

まとめ

ということで、まとまったのかまとまってないのかよくわかりませんが、独占禁止法とGAFAにまつわる本質的な問題についてちょっと書いてみました。

いろいろ書きましたが、結局は「美意識がある経営陣が仕切っている企業であれば、どういう方向に物事が動くにしてもそれなりに乗り越えられるはず」という話で、独占禁止法や本質的な問題はどっちでもいいと言えばどっちでもいいのかもしれません。

ちなみに、個人的には、GAFAの経営陣の中で一番美意識が足りないのはZuckerbergチームだと思っています。

Pichaiチームは、失態は犯してきているけれど根本的にはそれほど悪くないと思います。少なくともMicrosoftが独占禁止法で提訴されていた当時のGatesチームよりずっと良いですね。Gates氏は今でこそ立派な慈善家ですが、あの当時はあんまり美意識があるCEOではなかったですから笑

まあとにかく、各社がどう出てくるのか今後も楽しみに見守っていきましょうか。

*1:実際の報告書を読みたい人はこちら。(PDFが開きます)

*2:これをRule of reason(条理の法則)と言います。

*3:3割の手数料を取っているという意味ではGoogleもAppleと同じ立場ですが、GoogleがEpicの件であまり話題にならないのは、Androidの場合、GoogleのPlay Store以外にもアプリをダウンロードする選択肢があるからです。

時代に合わせて調整する投資基準

すっかりご無沙汰してました今村です、こんにちは。

あっという間に夏が終わってもう秋ですが、コロナが全然収まりませんね……。冬に第三波とかいう状況にならないように一人ひとり気をつけましょうね。

さて今日の話は、今村の投資基準の移り変わりについてです。

実は、以前書いたこれに対して

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ちょっと前にこういうコメントを貰っていたんですが、

そう言えば、こういうコメントもあったなと思い、

そうだ、昔こういうの書いたけど、

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4年以上前の話じゃん、あのときから時代の変化に伴ってビミョーにやり方変えてきててアプデ出してもいいくらいだし、ついでにあんまり説明してなかったことも書くといいかな、と思ったんですよね。

なので、その辺を書いておきます。

興味があれば読んでいってください。

ツイッターの方針

……とその前に、ちょっと脱線しますが、今村が何を考えて朝のニュースをツイートしているかも少し書いておきます。

朝のニュースの見出しをざっと眺めて気になったものを読む、というのはツイッターに関係ない今村の日課です。

「大まかな流れを見ること」と「どの企業がどんなことを言ってどんなことをしてるかを見ておくこと」が目的で、売買の材料としてニュースを見ることはほぼありません。自分の仮説を一気に覆すようなニュースが出れば見直しするかもしれませんが、長期投資の仮説というのは崩れるときには大体徐々に崩れていくものなので、特定のニュースを見てどうこうというのはほとんどないです。

じゃあ朝のニュースのツイートは何なんだ?と言うと、今村にとってこれは「読んだついでのサービス」であり「知ってほしいことを拡散するチャンス」です。

「読んだついでのサービス」という意味では、普段からどんなツイートがイイねされたりリツイートされたりするかを見ていて、需要がありそうだなと思ったニュースをツイートするよう心がけています。

決算報告とかニュースを受けた大きな値動きなど、個人的に重視していないこともツイートするし、反応が多い銘柄のニュースであれば、個人的に関心がなくてもツイートしています。

「知ってほしいことを拡散」という意味では、稼いでる経営者が社会還元したニュースとか、企業が働く環境を改善したニュースとか、日本でももっと広がるといいなと思うものをツイートしています。

一方、個人的に「へぇ」と思ってもあんまり反応がなさそうなことはわざわざツイートしなかったり、ツイートで簡潔に説明できないような内容のときもスルーしちゃったりしています。たまに連ツイして頑張ることもありますが笑。

てことで、下の今村の投資視点を読んでツイッターとギャップを感じたら、まあそういうことです。

基本的な投資スタイル

さて、基本的な投資スタイルについては、3年ちょっと前にこちらに書いています。

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大きくは変わっていません。

「一定の分野・事業において、この企業を本質的に信頼してお金を預けられるか」という視点で見て、良いと思ったもの(=グッと来たもの)を買って、1年に1、2回見直しする以外は基本的に放置、各種指標も決算報告もわざわざ見ない、というのを今でも続けています。

変わらないこと

以前からあまり変わっていないけれど、もしかするとあんまり説明したことがなかったかもしれないこととして今回思い浮かんだのは以下です。

買う時の仮説

買うときはなんらかの仮説を立てるようにしています。

……というか、正しくは「良い仮説が立てられるのなら買う」ですね。良い仮説が立てられないなら買わない。

仮説については、ツイッターでもちょっとつぶやいたことがあります。

インフルエンサーやアナリストがおすすめしてた銘柄を検討するとかは構わないと思います。でも、決断は自分なりの仮説を持ってしないとダメだと思います。売りどきがわからなくなるので。

今村の場合、基本的に長期投資なので、仮説は「こういう分野で、こういうEconomic moatで、こういう経営陣なら、こんな感じで事業は発展していくだろう」みたいなざっくりしたものがほとんどです。

見直すときの仮説

「年に1、2回見直すだけ」と書いていますが、それで十分なのは長期投資の仮説は抽象度が高くて状況なんて簡単に変わらないからです。

でも一応見直すときに仮説は考え直します。

ま、大抵は「あんま変わんないか」とかいう軽いノリなんですが、たまに仮説を進化させることもあります。どちらも放置の措置です。

「うーん……」という場合も大抵はすぐに売らないですね。特に買ったばかりは売らないです。でも要注意のフラグを立てます。

利確と損切りの基準

こんな感じで仮説を立てたうえで「この企業を信頼して出資しておこう」と決めて投資するので、売却は要注意のフラグを立てたあと「やっぱダメ」と判断をしたときに株価に関係なく行います。

投資を始めたばかりの頃は仮説を立てるのがヘタクソだったので、含み益に至らぬどころか含み損になった状態で仮説が崩れて「損切り」となることもよくありました。

でも最近はもうあんまりないですね。長年保有して含み益になっていたけれど、仮説が崩れてきたから「利確」というパターンの方が多いです。

まあ、多いと言ってもあんまりないんですが。売ること自体が少ないので。

とにかく、利確と損切りの基準は「仮説が崩れてきたとき」です。

練習を重ねて仮説をうまく立てられるようになれば、仮説が簡単に崩れなくなって売る判断を下すことも少なくなります。そうすると結果的に長期保有となり、なんだかんだで含み益になっている、というわけです。 

変わったこと

でも、自分の中で変わってきたこともあります。以下です。

理論株価

ここ数年は、手数料が低いETF、取引手数料が低い・ゼロの証券口座、簡単に取引できるアプリなど、いろいろな要因が相まって、投資のゲーム化が進んでいる気がします。

それに伴い、「リタイア後、そしてコロナショック後に改めて思ったこと」でも書きましたが、市場はどんどん理論株価を先回りするような傾向になってきている気がします。割安にこだわると買うタイミングがなくなる可能性が高くなってきたと言うか。

なので、最近は割安感をあまり重視しなくなりました。

「3ステップで簡単に選べる長期投資用の米国株」では、そもそもMorningstarのStockInvestorで割安になっている銘柄しか検討しないと書いています。でも今は、リストの並び替えをして割安になっているものから見てはいますが、大体リストの最後まで目を通しています。

また、StockInvestorの有料会員なら見ることができるMorningstar Premiumで、StockInvestorのポートフォリオやWatchlistに入っていない銘柄も割安かどうかを無視して検索してみることが多くなりました。

Economic Moat

「3ステップで簡単に選べる長期投資用の米国株」ではEconomic Moatの重要さについても書いていますが、今はこの見方もちょっと変化しています。

Economic Moatというのは、形成に時間がかかるものです。

ネットワーク効果も、無形資産も、コストの優位性も、切り替えコストも、効果的規模も、みんな基本的に企業が徐々に作り上げていくものです。

ですが、市場が理論株価を先回りしているという話に似た感じで、「まだEconomic Moatはないが、特定のEconomic Moatを特定の分野でいち早く築く可能性が高い」という期待が先走るケースが市場では多くなっている気がするんですね。

なので、実際のEconomic Moatも以前同様見ていますが、最近はMoatが形成されつつあるのか、それとも崩壊しつつあるのかというEconomic Moatのトレンドも同じくらい重要視しています。

ちなみに、StockInvestorのWatchlistでは「Economi Moat」の隣に「Moat Trend」という指標がありますが、これが「Positive」であれば、Moat自体が「Narrow」であってもプラスとし、「Negative」ならMoatが「Wide」でも要注意と見ています。

CEO

もう一つ、以前より重視するようになってきたのがCEOです。

いろんな企業を長く見ていると、同じ企業でもCEOの力で業績や株価が全然違ってくることを目の当たりにします。

例えば、MicrosoftのSteve Ballmer氏とSatya Nadella氏の違いなんて歴然ですし、米中で関税戦争になっていたときのAppleの立ち回りはTim Cook氏だからできたことであって、Steve Jobs氏だったら無理だったと思います*1

なので、「本質を見れば自信を持ってリスクを取れるし、リターンも上がる」でも経営陣のインタビュー動画がオススメと書いていましたが、今はもっと頻繁にCEOの動画を検索して、何を、どんなふうに、どういう佇まいで語るかをチェックしています。

ちなみに、ちょっと前にもツイートしましたが、

ここで書かれているような「美意識」があるCEOが、今村にとってグッとくるCEOです。

以前から直感でそういう経営陣を好んできてましたが、この本を読んで「なるほど、こういうふうに理由付けできるのか」と納得しました。

今後どういう企業が勝つかという視点からもこの本はオススメです。 

まとめ

世の中では、ベンチャー、ビリオネア、機関投資家などがこぞって未上場企業やスタートアップを狙って投資するトレンドが続いています。

大きなアルファを求めて、どんどん上流に行っているわけです。

株式市場内でも似たようなことが起こっているんじゃないかな、という気がします。

「理論価格を割っているからいずれ理論価格に収束するのを待つ」のではなく、「理論価格はもっと上がるのでは?という期待にかける」になってきていて、「Economic Moatがある優良銘柄に投資する」ではなく、「Winner-take-allでWinnerになるのではないか?という期待にかける」になってきているんじゃないかな、と。

だからと言って、長期投資してきた人がゲーム的な短期投資に走る必要はないとは思います。

でも、「ゲーム的なやり方をする人が増えていて、市場は大きくその影響を受けている」ということは認識して、投資基準を柔軟にしていく必要はあるんじゃないかなと思います。

数年後にはまたちょっとやり方変えてるかもしれません。

*1:ただ、AppleをAppleにすることができたのはSteve Jobs氏だったからで、あの当時にSteve Jobs氏でなくてTim Cook氏がAppleを率いていたら今のAppleはなかったと思います

リタイア後、そしてコロナショック後に改めて思ったこと

5月は3本もブログを書いたのに、6月は1本も書かなかった今村です、こんにちは。

もうすっかり「書きたくなったときだけ書く」スタイルになってます。

それはいいとして、今日は何を書きたくなったのかと言うと、現役引退後、そしてコロナショック後の考え方の変化についてです。

今村が正式に現役引退したのは2019年の5月だったので、現時点で1年以上経った計算です。また、2020年2月末頃からコロナの影響で市場が暴落し始めたので、現役引退1年足らずで市場暴落の経験をしたことになります。

そんな中、いろいろ感じることもあり、昔書いた記事の内容をちょっと改訂・補足したいなと思うようになりました。

……ので、今日はそれやります。

適当に読みたいところだけ読んでくださいませ。

投資するときに考えたい自分のライフサイクル

まずこれ。3年以上前に書いた記事です。

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自分で言うのもなんですが、今でも十分通用する記事だと思います。

ただ、人生100年とするとまだ折り返し地点の一歩手前という年齢で現役引退し、この記事で言う「衰退期」に実際突入してみて思うのは、

  • 余裕を持ってリタイアしていて、
  • 投資を続けられる人生の時間もまだ長い場合、
  • 衰退期だからと言って投資リスクの最小化を計る必要はない

ということです。

上の記事の数ヶ月後にこの記事を書いた時点で、このことについては薄々気づいていました。

でも今回、実際に労働所得がない状態でコロナショックがきたとき、市場から撤退しておこうとか全く思わなかったし、下落中もずっと普通に買えていたので「やっぱり自分のリスク許容度は全く下がっていない」と確認しました。

つまり、「ライフサイクル」という考え方は、普通のパターンでは役に立つかもしれないけれど、余裕のある早期リタイア組にはあまり当てはまらないということです。

早期リタイア組のリスク許容度は、ライフサイクルではなく、残りの投資期間がどのくらい長いのかと、どのくらい余裕を持ってリタイアしたのかによって決まります。

更に、リスク許容度をリタイア前のレベルに保てるのであれば、(少なくとも理論上は)リタイア後の想定リターンもそれほど下げなくていい計算になります。

今村の場合、もともと

  1. 年金もソーシャルセキュリティーも老後資金としてあてにしない
  2. リタイア後の想定運用リターンは低めに見積もって3%
  3. その3%も年齢とともに徐々に下がっていく想定

という超控えめな設定だったので、想定リターンをもっと上げて良いのなら更に余裕ができるし、逆にもっとリスク許容度を上げても構わないかも……という状況になっています。

個人的には、現役時代に早く仕事を辞めたいという気持ちがなかったので「こんなことならもっと早く仕事を辞めればよかった!」みたいなことは思いませんでしたが、実際に仕事を早く辞めたくて早期リタイアを目指している人は、「ライフサイクル」よりも、先の長さ、資金の余裕度、リスク許容度の3つを考慮して時期を決めると良いのではないかと思います。リスク許容度を保てるのなら、思ったより早くリタイアできるかもしれません。 

グッときた銘柄を買って放置する投資法

こっちは4年以上前に書いた記事です。

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基本的なことは変わっていません。

ですが、ここ数年感じているのは、市場はどんどん理論株価を先回る傾向になってきている、ということです。

以前は、割安になったところで買って放置しておけば大体は市場が理論株価に追いついてくるというパターンでしたが*1、今は市場の期待が先走ってあとから理論株価がついてくるパターンが増えている気がします。

要は、理論株価で見た割安感を条件にすると買うタイミングが訪れないケースが増えているわけです。

なので、ここ数年は、グッと来るならあんまり割安感を重視しないで買っちゃうことが多くなっています。

 

もう1つは、今回のコロナショックで改めて思ったことですが、市場が一斉に下がっても同じレベルで下がらず市場より早く戻ってしまう銘柄がある、ということです。

なに当たり前のこと言ってるんだ?って感じですが、今村は「暴落時には前からグッと来ると思っていた銘柄を買い足せばいい」と安易に考えていました。

でも、今回その辺りの銘柄は「これなら安い」と思うレベルまですぐに下りませんでした*2。そしてそういう場合はどうするかを事前に考えていませんでした。

とは言え、市場全体が下がって戻ってくるシナリオは確実だと思っていたので、何も買わないという選択肢は自分の中ではなく、結局コロナ相場では、

  • モートの条件をかなり緩め、
  • ずっと保有する前提も捨てて出口戦略を設定して*3買い、
  • 目標価格に到達したら利確

という、今村史上初*4の短期トレードも多くやることになりました。

つまり、グッと来た銘柄を買って放置という長期投資法は、暴落時の戦略としては足りなかった、ということです。

今後は、こういう事態に備えて普段からもう少し幅広い銘柄を見ておこうと思いました。

個別株・セクターファンド・インデックスファンドの使い分け

個別株、セクターファンド、インデックスファンドの使い分け*5については、やっぱり2~3年前にこの記事とかこの記事とかで書いていますが、基本的に今村は

  • 個別株:グッと来たものを買って放置する集中投資のツール
  • セクターファンド:個別株を補ったりトレンドに乗ったりするツール
  • インデックスファンド:他に良い選択肢がない場合や、考えるのが面倒なときに使うツール

という感じに位置づけています。

この考え自体は今でも変わっていません。

ただ、こっちの記事にも書いてますが、

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当社比的に言うと、実績は今までずっと

個別株 > セクターファンド > インデックスファンド

だったんですよね。でも

  1. 仕事をしていたときは仕事が優先で投資に時間を使いたくなかった
  2. 自分でやってもセンスがなくてダメなセクターがある

という理由で、全部個別株にしていませんでした。

でも、現役引退したら「時間は作れるようになったんだから、もう少しやれば?」と思うようになりました。なので、今までセクターファンドを買っていた口座でもぼちぼち個別株を買い始めています。

ETFを使わなくなることはないと思います。苦手なセクターとかはやっぱりETFにしときます。

でも、今後はファンドの比率を減らして個別株を増やします。使い分けの理論は変わらないんですけどね。

資産とポートフォリオの推移

以前、以下の記事で、2003年から2017年までの資産とポートフォリオの推移を見せたことがありましたが、

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ついでなので最新版を公開しておきます。

長くやってればそれなりの結果になるもんだ、という証拠の更新です。

資産

緑の棒グラフが資産、オレンジの棒グラフが負債、赤の線グラフが純資産です。

f:id:sakiimamura:20200709152308p:plain

ポートフォリオ

緑の線グラフがポートフォリオの評価額で、水色の線グラフが取得額です。

f:id:sakiimamura:20200709152330p:plain

まとめ

……てことで、リタイア後1年しないうちにコロナショックが来て、考え方ややり方が自分の中でいろいろ更新されたので、記録しときました。

これは決して「この投資方法がいいよ」という話ではありません。

「自分なりのやり方を考えて、何かあるごとにそれを検証して更新するといいよ」という話です。その例です。

リタイアしてる・してないにかかわらず、コロナ相場の1人反省会とかもするといいと思います。

今村はしました。反省点てんこ盛りでした笑

次回の暴落は今回よりもっとうまく活用します。

 

*1:もちろん万年割安株もあるので絶対ではありませんが。

*2:1月、2月上旬時点の株価を高くなりすぎと思っていたから余計にそう感じたという部分もあると思います。

*3:通常は価格で利確や損切りを決めるやり方は一切していません。

*4:今まで1年未満で売却したことはありませんでした。

*5:よく個別株vs.インデックスみたいな議論を見かけますが、どっちが良いという話ではなく、どう使い分けるかと考えた方が良いのにと常々思っています。

Berkshire Hathaway株主総会のQ&Aをまとめました

今日は早朝からBerkshire Hathawayの株主総会でしたねー。

今村は早起きする気などさらさらなく、あとからニュースメディアのまとめ記事をざっと読んで済ませようと思っていましたが、

とツイートしたときに、リンクを確認してライブ配信を流し始めたら、なんとなくノリでそこから最後まで見てしまいました。朝6時半から10時半近くまで。

長っ!!

あとからまとめ記事を読む方向で行っていたら、どれだけ記事を漁ったとしても、きっと30分もかからなかったはずなのに……。

でももう4時間費やしちゃったので、ヤケクソでまとめ記事も自分で書いときます。

なんせ休憩なしのライブ配信だったので、途中、集中力が切れ切れになったり、「えっ、今なんて言った?」と思っても巻き戻しできず流れていっちゃったりで、まあそういうクオリティのまとめですが、せっかく書いたので読んでってください。

あっ、まとめはQ&Aの部分だけです。事業報告とか議案決議の部分は割愛してます。

ちなみに、バフェットおじさんの株主への手紙もまとめてあります。こっちを先に読んでからQ&Aを読むといろいろわかりやすいかと思います。

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なぜ航空会社株を売ったのか?どれだけ売ったのか?

バフェットおじさんは、Q&Aの前の事業報告の中で、4月の株式売買の総額を見せてAmerican Airlines、Delta Air Lines、Southwest Airlines、United Airlinesを売ったと述べていました。それに対しての質問です。

回答は以下の通り。

  • 決してこれらの航空会社に失望したわけではない、経営陣もよくやっていると思う。この4社はアメリカの旅客マイル数の8割を担っており、これからも存続するだろう
  • だが、コロナの件で航空業界の先行きの見解が変わった。コロナが収束しても運航数はすぐには以前のレベルに戻らないのではないか。また、戻ってきても価格はなかなか戻らないのではないか
  • ここで航空株を保有しているのは間違いだと気づいたので売った
  • 航空株は市場を介して買っていた。市場を介して事業のほんの一部だけを買うのは、事業を丸ごと買うのとは違う。丸ごと持っていたら話は違ったかもしれない
  • こういう決断の場合、ポジションを減らすなどというやり方はしない。全部売った。何ヶ月もかけて積み重ねたポジションだったが、全部売るのには時間がかからなかった

投資家には買えと勧めているのに、Berkshireはあまり買っていないのはなぜか?

事業報告の話に入る前に、バフェットおじさんはアメリカ経済の底力とポテンシャルについて延々と語っていて、アメリカに長期投資しとけば間違いないと力説していました。これはそれに対する質問です。

回答は以下。

  • Berkshireはいつも最悪ケースを考えて保守的に投資している
  • また、現金ポジションが大きいと言われるが、Berkshireの事業も言ってみれば株式を100%所有している投資なので、それらをポートフォリオに入れて考えれば現金ポジションの割合はそれほど大きいわけではない。資金の大きさがBerkshireを優位にしている部分もある
  • でも、大きな買い物をする気は満々である。もし月曜日に300億、400億、500億ドルの買収の話が来て、それが良い話だったとしたら、もちろん買う
  • 一般投資家については、経済的・心理的に長期間保有できる状態を確保してから株式投資するべきである。決して借金をして投資をすべきではない

4月に買った4.26億ドル相当の銘柄は何か?

  • 4月に買ったものについては覚えていない
  • そもそもBerkshireで資本配分をしているのは自分だけではない。4.26億ドルはたいした金額ではないし、たぶんToddが何か買ったのだろう

Munger氏やBuffett氏が退任したあと、Berkshireの文化はどうなるのか?

バフェットおじさんの回答

  • たぶん変わらないであろう
  • Greg、Todd、Tedがちゃんとやってくれる
  • ちなみにCharlieは96歳だが健在だ。自分もまだまだ元気だ。やむを得ず退任となるまで退任しない

Greg Abel氏の回答

  • Berkshireの文化は、事業取引や経済の見通しに関するビジネス感覚を持って迅速に行動するということだと思う
  • そういう意味では、Buffett氏やMunger氏には敵わないかもしれないとしても、文化を守るチームがいる。Berkshireの文化が変わることはないと思う

金融危機の時には融資をしていたが、今回のコロナショックではそういう融資の話はなかったのか?

  • 今のところ、食指が動くような話は舞い込んできていない
  • 金融危機の時の融資にアメリカ経済を救済するような社会貢献な意味はなかった。規模が大きく魅力的な取引だったから融資しただけである
  • 今回も、アメリカ経済を救済するために融資先を探すということはしない。だが、ある程度の規模で魅力的な融資の話があればいつでも対応する
  • いずれにせよ、今回は政府の支援を受けるケースが多いようで、Berkshireにはあまりそういう話は来ていない

Berkshireの事業はどれくらいコロナの影響を受けているのか?

  • エネルギー部門では消費が4%減となっている
  • 小売部門も休業になっているものが多く、解雇もあった
  • だが、5年後には従業員も増えているだろうし、影響はそれほど大きくない

4月17日のインタビューで、Charlie Munger氏がコロナが収束しても再開できない事業も出てくるだろうと述べていたが、それはどうなのか?

  • 子会社内の事業で再開しないものはあるかもしれないが、子会社が丸ごと潰れることはない
  • 新聞など、コロナ以前からいまいち業績が良くなかった事業はあった。これらはコロナで一層苦しい状態になっているので、再開がないケースもある

不採算事業も捨てないという方針があったのではないか?

  • 時代とともに廃れていく事業はある。そのようなものを永遠に保有し続ける方針はない
  • 新聞事業などは売却できれば売却する

コロナの影響で車のドライブ距離が激減していることは自動車保険業にはプラスになるのか?

  • GEICOは全米で2番目の大手自動車保険会社だが、自動車保険業界では、車のドライブ距離が減って事故も減っている分を保険契約者に還元する方向に動いている
  • GEICOも保険契約者に払い戻しをする予定である

他の保険業はどうなっているのか?コロナの影響を受けていないのか?

  • 訴訟になるケースが多いだろう。そして訴訟になればコストがかかる
  • 自動車保険については、わりと白黒はっきりしているため予測しやすい
  • 問題になるのは資産損失や事業中断の保険だが、商業不動産に関連する保険はあまり扱っていない。事業中断保険に関しては、パンデミックを原因とする事業中断を含む契約のみが対象になる。パンデミックを含んでいない契約も多い
  • なんにせよ、これらのタイプの保険の割合は他の保険会社よりも小さい。まずいことになっている保険会社もあるが、Berkshireの状況はそこまでひどくない

今後、パンデミック保険にも手を出す気はあるか?

  • 希望があれば喜んで検討する
  • 今までも様々な変わった保険を提供してきた
  • ただし、一定以上規模で、価格が魅力的であることが条件

BerkshireでPPPローンの申請をした子会社はあるか?

  • ない

Berkshire株のパフォーマンスは近年S&P500を下回っているが、どうなのか?

  • 今後BerkshireがS&P500を上回るパフォーマンスを出すと賭けるかと言われたら賭ける気にはなれない
  • 自分の資産の99%がBerkshireにつぎ込まれているので、できる限りのことはするが、資産運用とは金額が大きくなると難しくなるものである
  • Berkshireの簿価は現在3,700億ドルほどだが、これは50億ドルのファンドを運用するのとはわけが違う。50億ドル程度のファンドだったら運用も簡単だが、なかなかそうはいかない

自分が退任したあとはGreg、Todd、Tedがちゃんとやってくれるとのことだが、Ajit Jain氏はどうなったのか?

  • 自分が今やっているのは資本配分なので、資本配分を担当しているGreg、Todd、Tedの名前を挙げた。
  • Ajitは保険業担当だ。彼はBerkshireに欠かせない凄腕である

Occidental Petroleumの株価が大きく下落しているがどうなのか?

  • Occidentalは石油会社なので、株価が原油価格に影響されることは免れない
  • 1バレル20ドルくらいでないと採算が取れないのだが、コロナで原油価格が暴落することは予想できなかったので仕方ない

コロナで株価が下落しているが、プットオプションの支払い責任はどうなっているのか?

  • 2004年~2006年くらいの間に、満期が15~20年先の設定でインデックスのプットオプションを50枚ほど売って48億ドルほどのプレミアムを受け取った
  • これらのプットオプションはヨーロッパスタイルと呼ばれるもので、満期時点でインデックスがオプション売買成立日の価格を下回っている場合のみ、下回っている度合いに応じて支払い義務が生じるものである
  • すでに満期を過ぎたものもあり、現在残っているのは140億ドル分ほどである。20~25%ほどが今年の終わりがけに満期を迎えるはずだ

Buffett氏退任後に、Berkshireを分割することはないのか?

  • 検討したことはあるが、それはない
  • Berkshireにはたくさんの子会社があるが、それらを譲渡するとなると莫大な税が生じて、株主に不利になる
  • また、複合企業として資金を事業間で融通し合えるのは大きなメリットであるが、Berkshireを分割するとそれがなくなってしまう
  • 私の退任後のBerkshireのプランは、かなり前から練っているものである
  • 税制が大きく変わって事業譲渡の課税がなくなったりすれば話は別だが、株主が不利になることはしない

ヨーロッパや日本ではマイナス金利になっているが、アメリカでもそうなったら保険業の手持ち金の運用はどうなるのか?

  •  マイナス金利になるのか、そうなったらそれが継続するのか、そのあたりのことは自分にはわからない
  • いずれにせよ、短期国債は投資商品として良いものではない

(だからどうするんだというところは、おじさんが答えなかったのか、今村が聞き逃したのかよくわかりません……。ノート取ってたんですが、なんも書いてないっす。ごめん。ただ、株主への手紙では他の運用法がある的なこと言ってましたね……。)

アメリカ政府が国債の債務不履行になることはありえるのか?

  • ない
  • 自国の通貨で国債を発行しているから大丈夫である

自社株買いが批判されるようになってきたがどう思うか?

  • 確かに自社株買いを批判することが正しいという風潮になっている
  • 良い自社株買いには、1)成長に資金を投じるという前提、2)割安の時のみ買うという条件がある。価格やニーズに応じて行わなくてはならない
  • 自社株買いは、株主全員に有無を言わせず支払う配当と違って、リターンを現金化したくない株主はしなくても良いというメリットがある

A株を分割して株価を下げることは考えているか?

全部A株で所有しているが、老後資金として小出しに現金化したいので分割を望んでいるという人からの質問。

  • A株はB株に転換できる
  • 昔はA株とB株で議決権に差があったが、今はないので、B株に変えて小出しに売れば良い
  • 自分もA株を寄付する際にはB株に変えて寄付している

銀行株をチェックする上で見るべきところはどこか?

このような経済状況だとローンの不良債権化などの問題が出てくるのではないか、きちんとしている銀行とそうでない銀行を見分けるにはどこを見れば良いのかという質問。

  • 今回は金融危機のときのような状況ではなく、銀行業界自体に問題はない
  • また、銀行は十分な資金を準備金に充てているので、当面は心配する必要はないのでないか
  • ただ、コロナの状況がいつまで続くのかわからないので、もっと先のことはわからない

なぜ3月の一番割安になっていた時にもっとBerkshire株を買い戻さなかったのか?

  • 毎日自社株買いをしているわけでも、自社株買いのことを考えているわけでもない
  • 他に良いお金の使い方があれば、割安でも自社株買いしないこともある

超低金利なのに、どうしてクレジットカードの金利はこんなに高いのか?

  • クレジットカードの金利を決める仕組みについてはよく知らないが、競合などもあるのだろう
  • そんなことより、クレジットカードで18%の金利を払うなどということは直ちにやめなさい。18%のリターンを得られる投資など滅多にないのだから、投資云々言っている前にクレジットカードの返済を終えなさい

PPPローンについてどう思うか?

  • 人々を助ける良いアイデアだと思っている

格差が激しくなっているが、資本主義についてはどう思うか?

  • 資本主義は、脱落した者にとっては残酷なシステムである
  • ただ、アメリカの発展は資本主義なしではあり得なかった
  • そういう意味で、資本主義とは、素晴らしいが政府の介入が必要なシステムである
  • 勝者一人勝ちになるような資本主義ではなく、誰もが参加できる資本主義にしていかなくてはならない

バフェットおじさんの最後の一言

ジェフ・ベゾスの株主への手紙のまとめ

コロナのせいで遊びに行くところがなくなって最初はぶーたれてたけど、「外出自粛令も出ちゃったし、前から家でやろうと思ってたことをやるか」と腹をくくったら、なんだか楽しくなってきた今村(@saki_imamura)です、こんにちは。

以前、脳研究者の池谷裕二さんが「やり始めないとやる気は出ません(やり始めればやる気は出る)」って言ってましたが、ほんっとそうですね。今回、乗り気じゃなかったことをエイヤッ!とやり始めたらめちゃくちゃやる気が出てきて、笑っちゃいました。

で、忙しく何かをしてると他のことも惰性で(?)やろうかなと思っちゃったりするみたいで、ベゾス氏の株主への手紙が出たのを見て、まだ読んでもいなくて面白いかもわからないくせに「要約してもいいけど、読みたい?」とか口走ってました。

そしたら、「読みたいです」「お願いします」という声があって、「イイね!」もたくさんついちゃいました。

……ので、ジェフ・ベゾス氏の株主への手紙の要点を、読みやすいように勝手に見出しをつけつつ、箇条書き形式でまとめました。

あっ、1つだけ。

まとめと言っても、情報的にはほぼ全部入っていて省略はあんまりない状態です。でも、厳密に言うと、これは一文一文をちゃんと訳す「翻訳」ではないです。

なので、拡散するときは「手紙の翻訳」ではなくて「手紙の要点のまとめ」として紹介してもらえると、今村が現役同業者の方たちに対して心苦しくならずに済んで喜びます。よろしくお願いします。

営業状態について

  • 今回のコロナ禍でわかったことは、Amazonがいかにお客様にとって重要なものになったかということである。Amazonがこの責任を辛辣に受け止めているということ、この大変な時期にお客様を助けているAmazonの従業員たちのことを誇りに思っていることを知っておいて欲しい。
  • 従業員たちは24時間体制で働いて必要な物資を玄関口まで直接届けているが、必要不可欠な物資の需要は高いままである。また、ホリデーシーズンとは異なり、需要の急増を事前に予想できなかったため、サプライヤーや流通を含め、現場ではさまざまなチャレンジがあった。
  • Whole Foodsは生鮮食品やその他の必要物資を提供するため営業を続けている。コロナ対策としては、開店後最初の1時間はリスクが高い高齢者が一般客のいない状態で買い物できるようにしたりしている。
  • Amazon Books、Amazon 4-star、Amazon Pop Upなどの必要物資以外のものを販売している店舗は休業とした。これらの店舗の従業員は他の場所で働けるように調整している。

従業員向けの安全対策

  • 重要なのは、必要不可欠なサービスを提供しつつも、Amazonは世界中の従業員や請負業者の安全対策を重点的に行っているということである。
  • 医療専門家や保健当局に綿密な指導を受け、配送ネットワークとWhole Foodsでの150以上のプロセス変更を行った。マスクの配布や体温チェックの導入、ドアノブ、手すり、ロッカー、エレベーターのボタン、タッチスクリーンなどの定期的消毒なども行った。
  • 対人距離の確保のため、シフト中のミーティングをなくして情報共有は掲示板で行ったり、休憩時間をずらすなどの措置も行った。
  • 新入社員はこれまで通り安全に関する研修を6時間受けているが、従業員が1ヶ所に集まらないようにプロセスを調整している。

今後の安全対策

  • 従業員を守る次のステップの1つとして、無症状の者を含む従業員全員を定期的に検査することを考えている。世界中のすべての業界で定期的に検査することができれば、人々を守りつつ経済を再起動させる助けにもなるだろう。
  • これを可能にするためには、検査能力を社会全体で大幅に拡大することが必要となる。すべての人が定期的に検査を受けられれば、陽性の人を隔離・治療し、陰性の人は自信を持って経済復帰できるため、コロナウイルスとの戦いは大きく変わってくるはずである。
  • Amazonでは、研究科学者、プログラムマネージャー、バイヤー、ソフトウェアエンジニアなど、様々な部門のAmazon社員を集め、検査能力を拡大していく取り組みに専念するチームを結成した。最初のラボを作るための設備装置の設置は始まっており、近いうちに検査を少数の現場従業員から始めたいと思っている。
  • コロナ禍の間にどこまでできるのかはわからないが、やってみる価値はあると思っている。ここから得た学びはすべて共有するつもりだ。

従業員・請負業者への対応

  • 長期的な解決策を模索する一方、社員を今支援することにも力を注いでいる。
  • まず、4月末までの最低賃金は、アメリカで2ドル、カナダで2ドル、イギリスで2ポンド、ヨーロッパ諸国で2ユーロ引き上げ、通常は1.5倍の時間外勤務賃金を2倍(最低時給34ドル)に引き上げた。
  • これらの賃金引き上げのコストは4月末で5億ドル以上になる見込みで、以降も時とともにさらに増加すると思われるが、このような状況下ではこれが正しいことだと信じている。
  • また、とりあえず2,500万ドルを投じてAmazon Relief Fundを設立した。これは配送サービスで提携している会社やその配達員、Amazon Flexを通して働いている配達員、派遣社員などで経済的支援が必要な人向けの基金である。

新規雇用

  • 3月に、配送センターと配達ネットワークで10万人の新規求人を開始した。この枠が埋まったあと、さらなる需要に応えるため、今週の始めに7.5万人の求人を追加している。
  • 世界では多くの人が仕事を失って経済的に困っているが、このような人たちに再雇用があるまで仕事を提供できるのは喜ばしいことである。空港が閉鎖されたため仕事を失ったメカニックや、学校が再度開校されるまで仕事がない先生などもAmazonでは受け入れている。

悪徳業者の取り締まり

  • コロナ禍に関わる悪質業者からお客様を守る活動も積極的に行っており、便乗値上げした商品を50万点以上削除、公正価格ポリシーに反した販売アカウントを6千件以上停止処分にした。
  • ちなみに、コロナ禍に関わる便乗値上げを行ったと思われる販売者の情報は、各州の検事総長に引き渡している。また、州検事総長とのやり取りを迅速に行って便乗値上げに対応するため、専用の通信手段も確保した。

AWS

  • AWSもコロナ禍対応において重要な役割を果たしている。必要不可欠な医療業務、生徒が学習を続ける環境、かつてない規模のリモートワークなどを支えるうえで、拡張性・信頼性・セキュリティが揃ったコンピュータ処理能力にアクセスできることは企業や団体にとって重要になってくる。
  • 医療機関のネットワーク、製薬会社、医療研究所などは患者のケアを行ったり、治療法を探したり、新型コロナの影響を最小限に食い止めることにAWSを利用している。
  • 世界中で、学術機関は対面式のクラスからバーチャルクラスに移行するためにAWSを利用している。
  • 政府機関は、パンデミックを終わらせる取り組みとして新機能の構築をAWSを利用して行っている。

AWSとWHO

  • AWSは世界保健機関(WHO)とも協力しており、ウイルスの追跡、流行の把握、流行の抑制などにおいてクラウドテクノロジーや専門知識を提供している。
  • WHOは、AWSのクラウド上で大規模なデータレイクの構築、各国の疫学データの集約、医療トレーニング動画の迅速な翻訳、患者に対応する世界中の医療関係者の支援を行っている。

AWSのその他の活動

  • AWSはWHOのデータレイクとは別に、新型コロナウイルス用の公共データレイクを最新データや要約データのリポジトリとして提供している。これにより、専門家が最新データにアクセスしてコロナ対策を行うためのデータ分析ができるようになっている。
  • AWS Diagnostic Development Initiativeという、より良い診断を行うソルーションを市場に出そうとしているクライアントを支援するプログラムも2,000万ドル投入して立ち上げた。より良い診断ができれば、治療を迅速に行いパンデミックを抑制する助けになる。このプログラムは新型コロナに対応すべく立ち上げられたが、今後も感染症の流行を遅くさせるような研究プロジェクトには資金を投入するつもりである。
  • ニューヨーク市のCOVID-19 Rapid Response Coalitionに加わり、リスクが高い高齢者と対話を行うプログラムを開発した。これにより、高齢者は医療やその他の重要なニーズに関する正確でタイムリーな情報を受け取ることができる。
  • 70万人の生徒を遠隔学習に移行させようとしていたロサンゼルス統一学区からの要請を受け、生徒の質問に対応し、遠隔操作のサポートを提供できるよう、コールセンターの設立を支援した。
  • AWSはCDCにもクラウドサービスを提供している。CDCはこれにより、数千人の開業医や臨床医がCOVID-19に関連するデータを収集して対応の報告ができるようにしている。
  • イギリスでは、病院の稼働率、救急治療室の収容可能数、患者の待ち時間などを分析するプロジェクトにAWSが利用されており、国民医療サービスがどのようにリソースを割り当てを最適化するかに役立てられている。
  • カナダでは、世界最大のバーチャルケアネットワークの1つであるOTNがAWSを活用したビデオサービスを拡大し、パンデミックに伴って4,000%急増した需要に対応している。
  • ブラジルでは、AWSはサンパウロ州政府にクラウドを提供し、州立学校の100万人の生徒がオンラインクラスを利用できるようにしている。

アレクサ

  • CDCのガイドラインに従い、アレクサのヘルスチームは、アメリカのユーザーが自宅で新型コロナ感染のリスクを確認できる機能を作成した。ユーザーは「アレクサ、COVID-19に感染したと思ったらどうすればいい?」または「アレクサ、コロナウイルスに感染したと思ったらどうすればいい?」と尋ねることができ、アレクサがその人の症状や濃厚接触に関する一連の質問をしたのち、返答に基づいてCDCのガイドラインを提供する仕組みになっている。

  • 日本の厚生労働省のガイドラインに基づいた同様のサービスを日本でも作成した。

寄付・慈善事業

  • 新型コロナ感染の最前線で活躍しているFeeding America、American Red Cross、Save the Childrenなどの慈善団体にAmazon.comやアレクサから直接寄付できるようにした。エコーのユーザーの場合、「アレクサ、Feeding America COVID-19 Response Fundに寄付して」と言うことができる。

  • シアトルでは、ケータリング業者と提携して、シアトルとキング郡で2,700人の高齢者や医学的にリスクが高い住民に73,000食を配布した。また、8,200台のノートパソコンをシアトルの公立学校の生徒に寄付し、オンラインクラスの際に実際に利用できるデバイスがあるようにした。

新型コロナウイルスの後

脱炭素化の取り組み

  • 今は非常に大変な時期ではあるが、これは会社としての我々の取り組みは人々の生活に大きな影響を与えることできるのだと認識させてくれる重要な時でもある。ユーザーはAmazonを頼りにし、幸運なことにAmazonは助ける立場にいるのである。我々の規模と迅速にイノベーションを起こせる能力で、Amazonは良い影響を与え、進歩を率いる組織力となることができる。

  • 昨年、Amazonは、国連の元気候変動責任者であり、Global Optimismの創設者でもあるクリスティアナ・フィゲレス氏と共同で「The Climate Pledge(気候変動誓約)」を設立し、第一の署名企業となった。この誓約では、Amazonは10年早くパリ協定の目標を達成し、2040年までに炭素排出を実質ゼロにすると約束している。

  • この目標を達成するには大きな壁が多くある。Amazonは情報のやり取りをしているだけではなく、広範囲に及ぶインフラを所有し、世界中に年間100億個以上の商品を配達しているからである。そのため、もしAmazonが10年早く実質ゼロの炭素排出に到達できるのであれば、どの企業でも可能だと信じている。すべての企業と協力して実現したいと考えている。

  • そこで、The Climate Pledgeに署名してくれる企業を募集している。署名企業は、温室効果ガスの排出量を定期的に測定および報告し、パリ協定に沿って脱炭素化戦略を実施し、2040年までに年間の実質炭素排出量をゼロにすることに同意する(近々、新しい署名企業を発表する予定)。

  • Amazonは、ミシガン州を拠点とする電気自動車メーカーのRivianから10万台の電動バンを購入することで、この公約を部分的に満たすつもりである。 早ければ2022年には新しいRivianの電動バンを1万台、そして2030年までには10万台全部のを走らせることを目指している。

  • これ自体が環境に良いことだが、それ以上の期待ができる。この手の投資は「大規模なグローバル企業が低炭素経済に移行するうえで必要となる新しいテクノロジーを発明・開発すべきだ」という合図を市場に送ることになるからだ。

  • Amazonは、エネルギーを再生可能エネルギーの割合を2024年までに80%、2030年までに100%にすることも誓っている(実際には、チームは2025年までに100%に到達することを目指しており、それを実現するために挑戦的だが成功の見込みはある計画を立てている)。

  • Amazonには、世界中で86の太陽光発電と風力発電の設備がある。2,300MW以上の発電能力があり、年間630万MWh以上のエネルギーを供給できる。これはアメリカで58万世帯以上に電気を供給できる量である。

  • 梱包材の無駄も大幅に削減した。10年以上前にFrustration-Free Packaging programを立ち上げ、商品を開封しやすく、100%リサイクル可能で、追加の箱を必要としないでそのまま配送できるような梱包に移行するようメーカー側に働きかけたが、2008年以来このプログラムのおかげで節約できた梱包材は810,000トン以上、使用しなくて済んだ箱は14億個となった。

  • 本来ネットショッピングは店舗に行くよりも炭素効率が高いが、Amazonはこのような大きな投資を行うことで炭素排出量を減らしている。Amazonには持続可能性の専門家がいるが、彼らが3年以上かけてモデル、ツール、指標を開発し、炭素排出量を測定してきた。

  • 彼らの詳細な分析によると、配達用バンが1回配達に出かけると個人の車の往復が平均約100回減らせる計算になる。Whole Foodsの食品をネットで注文する場合と、個人が最寄りのWhole Foodsの店舗に行く場合の炭素強度を比較するモデルも開発したが、この調査では、すべての注文サイズを平均した場合、食品のネット注文の配達は店舗での買い物と比べて1品目あたりの炭素排出量が43%少ないことがわかった。炭素排出量は注文サイズが小さいほど節約できる。

  • AWSも根本的に従来の社内データセンターよりも炭素効率が良い。これは主に、稼働率が高いことと、AWSのサーバーや設備の方が大半の企業が自社のデータセンターの運用で達成できるよりもより効率的であるという2つの理由による。

  • 典型的な単一企業のデータセンターのサーバー稼働率は大体18%程度である。アクセスが大幅に急増した際に対応するにはそのような余分な容量が必要だからである。 AWSは、複数のクライアントの利用パターンを活かして、はるかに高い稼働率でサーバーを利用できる。また、AWSは、たとえば従来のエアコンの代わりにより効率的な蒸発冷却器を特定のデータセンターで使用するなどして、施設や設備のエネルギー効率の向上に成功している。

  • 451 Researchの調査によると、AWSのインフラのエネルギー効率は調査された米国企業のデータセンターの中央値よりも3.6倍高かった。再生可能エネルギーの使用と併せたこれらの要因のおかげで、AWSは従来のデータセンターと同じタスクを88%低い炭素排出量で実行できている。そして、残りの12%には取り組まないだろうとは思わないでいただきたい。Amazonはさらなる再生可能エネルギープロジェクトへの投資によって、AWSの炭素排出量を100%相殺するつもりである。

雇用と従業員の福利厚生

  • この10年間で、Amazonほど多くの雇用を創出している企業はない。Amazonが世界で直接雇用している従業員は84万人で、アメリカでは59万人以上、ヨーロッパでは11.5万人、アジアでは9.5万人にものぼる。アメリカ全体で見ると、Amazonが直接的および間接的に創出している雇用は200万件で、これには建設・物流・専門サービスなどの分野へのAmazonの投資によって生み出された68万件以上の雇用や、Amazonで出店している中小企業によって生み出された83万件の雇用が含まれる。世界的には400万件近くの雇用を生み出している。

  • 我々は特に、これらが多くの場合未経験者レベルの仕事であり、人々が労働社会に加わる最初の機会を提供することになっているという事実に誇りを持っている。

  • さらに、Amazonでの雇用には、業界トップクラスである最低賃金15ドルと包括的な福利厚生が含まれている。 4,000万人以上のアメリカ人(多くの場合、連邦の最低賃金である時給7.25ドルで働いて)給与が最も少ないAmazon社員よりも少ない収入なのである。2018年に新人の最低賃金を時給15ドルに引き上げたが、これは配送センターで勤務している何十万人もの従業員にとって即時かつ大きな影響があった。我々は他の大手雇用主にも我々と同様に最低賃金を引き上げてもらいたいと考えており、連邦の最低賃金を15ドルに引き上げることを求めてロビー活動を続けている。

  • 給与の域を超えて従業員の生活も良くしたいと考えている。Amazonは、すべての正社員に健康保険、401(k)プラン、20週間の有給産休を含む様々な福利厚生を提供しているが、これらはAmazonの最高幹部の福利厚生と同じものである。

  • また、急速に変化する経済の中で、テクノロジーに遅れずについていくために労働者はスキルを継続的に進化させる必要があるということが今まで以上に明確になっている。そのため、7億ドル投入して、ヘルスケア、クラウドコンピューティング、機械学習などの需要の高い分野の訓練を10万人を超えるAmazon従業員が職場で受けることができるようにしている。

  • 2012年以来、Amazonでは「Career Choice」という、需要の高い職業に転職することを目指している配送センター従業員向けのプリペイドプログラムを提供している。雇用需要が高く、より良い雇用機会を得ることができる特定の分野での修了証書や卒業証書に対して、Amazonが最大95%の授業料を支払う仕組みである。立ち上げ以来、2.5万人以上のAmazon従業員が需要の高い職業の訓練を受けている。

  • 将来の世代がテクノロジーによって支配される経済の中で成功するのに必要なスキルを確実に得るために、我々は昨年「Amazon Future Engineer」という名のプログラムを立ち上げた。これは、低所得で恵まれない若者がコンピューターサイエンスの分野で就職できるよう研修を行うプログラムである。

  • 我々の目標は野心的で、毎年何十万人もの学生がコンピュータサイエンスとコーディングを学べるよう支援することである。Amazon Future Engineerは、全米の十分な支援が得られていない地域にある2,000を超える学校を対象に、コンピュータサイエンスとAPコンピュータサイエンスの入門クラスに資金を提供している。

  • また、Amazon Future Engineerは、毎年100人の低所得世帯出身のコンピューターサイエンス専攻学生を対象として、4万ドルの4年大学奨学金を提供している。この奨学金の受給者には、Amazonでの有給インターンシップも大学入学2年目から保証される。

  • イギリスでのプログラムでは120人に工学実習の資金を提供し、恵まれない家庭の学生がIT分野で就職するための支援を行っている。

  • 今のところ、私自身の時間と思考は引き続き新型コロナウイルスと、その真っ只中にいる間にAmazonがどのように役立てるかに向けられている。Amazonの仲間たちが見せている粘り強さと創造力には非常に感謝している。当面の危機の向こうにある見識や教訓を見い出し、それらを今後どのように応用するかについては、我々全員に期待していていただきたい。

  • このDr. Seussの言葉について考えてみて欲しい:

    「何か悪いことが起こったとき、君には3つの選択肢がある。自分の状況を決められることを許す、負かされてしまうことを許す、鍛えさせられることを許す、のどれかなのだ。」

    現代社会がこれらのうちのどれを選ぶかについては、私は非常に楽観的である。

  • このような状況であっても「Day 1」なのには変わりない。いつものように1997年の株主への手紙のコピーを添付しておく。

まとめ

……ということで、これが今回のベゾス氏からのお手紙の内容でした。

やっぱり新型コロナウイルス関連の話がメインでしたね。なんでもチャンスとして受け止めて、大局的に物事を考えて実行するベゾス氏らしい話という感じでした。

一応付け加えておくと、1997年の手紙というのは最初の株主への手紙のことです。もともとこういうビジョンを持った会社なんだよ、というような意味で毎年添付されています。たぶん探せばどこかに日本語訳あるんじゃないでしょうか。

Amazonとは本質的にどういう会社なのかとか、Day 1とはどういう意味かという話はこちらの記事で書いてますので、詳しく知りたい人はこっちも参考にしてください。 

www.saki-imamura.com

Career Choiceなどの配送センターの従業員の教育については、配送センターの見学に行ったときにいろいろ聞いていたんですが、今そのときの記事を見直したら全然従業員教育について書いていなかったのでちょうど良かった感じです。

ついでにこれまでのAmazon関連の記事も貼っときますので、良かったら参考にしてください。 

ではでは。

 

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原油をめぐる今までの背景、現状、今後

お久しぶりです~。

1ヶ月に1本のペースでブログを書いてると言いつつ何も書かずに3月が終わってしまった今村です、こんにちは。

新型コロナの感染拡大、株式市場の暴落など、世間はいろいろ大変なことになってますが、みなさんどうですか?

今村は、9.11のせいでリストラされ、その後リーマンショックのせいでまたリストラされているんですが、振り返ってみると「リストラその1が全く想定していなかった業界に転職するきっかけになり、リストラその2がフリーランスになるきっかけになって今の自分がある」みたいなところがあるので、今回もこれがきっかけで何か面白い展開が生まれる可能性はあるかもなぁ、ちょっとワクワクするなぁ、と思っています。

大変な状況はいつか終わるし、これがなければ生まれなかったであろう良いものも生まれると思うので、「This, too, shall pass.」と唱えて乗り切りましょう。

 

さて、今日久しぶりにブログを書こうかなと思ったのは、この記事を読んだからです。

www.foreignaffairs.com

原油に関するニュースもたまにツイートしてますが、簡単な話ではないことが多く、120字のツイートでは伝えにくいなぁと思っていました。

そしたら、この記事がわかりやすくまとめてくれていました。

で、ああ、そうか、これをもとにして、今までツイートしなかった情報も含めてブログ記事を書けばいいのか、と思ったので、早速そうすることにします。

今までの背景

今までの背景がわかっていると現状を理解しやすくなるので、まず背景。

原油の世界需要は2009年からずっと伸びています。でも需要の伸び率は新型コロナに関係なく2017年から下がってきています。

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出典:https://www.cnbc.com/2020/04/01/5-charts-that-explain-the-saudi-arabia-russia-oil-price-war-so-far.html

それに対応すべく、ロシアとサウジアラビアが中心となったOPEC+が2017年1月から生産量を制限して供給調整をしてきていました。

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出典:https://www.cnbc.com/2020/04/01/5-charts-that-explain-the-saudi-arabia-russia-oil-price-war-so-far.html

一方、そんなOPEC+諸国を横目に、シェール革命の恩恵を受けたアメリカは原油市場のシェアを拡大し始め、2018年には世界最大の生産国にまでなりました。

ロシアやサウジにとっては面白くない展開です。

特にロシアは、アメリカが強気でロシアに制裁を仕掛けられるのはシェールオイルがあるから(=ロシアの原油に依存しなくていいから)だとわかっているので、面白くないはずです。

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出典:https://www.cnbc.com/2020/04/01/5-charts-that-explain-the-saudi-arabia-russia-oil-price-war-so-far.html

そんなこんなしてる中、新型コロナ感染が中国で拡がり、需要の大幅減少を見込んで原油価格が下落してきました。

IMFの推計によると、サウジアラビアは、もともと1バレル80ドルあたりを切ってくると財政赤字を避けるのが厳しい状態です。なので、サウジは価格の下落に歯止めをかけるためにさらに生産量を制限することをOPEC+に提案しました。

でも、1バレル42ドルで財政黒字を保てるロシアは、新型コロナ感染の拡大がどれほどの規模と影響になるのか6月まで様子見することを主張しました。

こうしてOPEC+が決裂し、その後サウジは価格が下がる分を埋め合わせることを理由に増産を発表し、これを受けたロシアも増産する決断を下したため、原油価格は暴落したというわけです。

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出典:https://www.cnbc.com/2020/04/01/5-charts-that-explain-the-saudi-arabia-russia-oil-price-war-so-far.html

今後どのような展開になるのかはわかりませんが、よく言われているのは、アメリカも減産に協力しなければロシアとサウジアラビアは減産に同意しないかもしれないということです。 

アメリカの対応

じゃあアメリカが減産を約束すれば済む話なのでは?という感じですが、アメリカにとってそれはあんまり簡単な話ではなかったりします。ロシアやサウジアラビアと違って、政府に自国の原油生産量をコントロールする権限がないからです。

生産量を規制できるのは州ごとの規制委員会で、例えばアメリカの原油の4割を生産しているテキサス州の規制委員会には「無駄が出ることを防ぐため」という理由で生産を制限する権限があります。ただ、そのような制限はここ半世紀なされたことがなく、たとえ権限を行使しようとしても賛否両論となって簡単に実施できないだろうと言われています。

それに、できたとしてもそれはその州だけです。他州と連携できていなければアメリカ全体で生産量を制限するのは難しそうです。

なので、減産は大手石油会社に働きかけて自主的にやってもらうしかないわけです。

実際、トランプ氏は4月3日時点でExxon、Chevron、Occidental Petroleum、Devonなど大手石油会社のCEOを招集して会合を開いています。

トランプ氏がここで減産の話を持ち出したのかはニュース記事を読んだ限りではわかりませんが、トランプ氏のコメントは「なんとかなるだろう。今の時点では海外の原油に関税を課すつもりはないが、いざとなったらそれもできる」でした。

ちなみに、4月6日時点のニュースでは、

www.cnbc.com

  • プーチン大統領が参加国合わせて1日1,000万バレル減産することを提案
  • 両国の合意は間近
  • ロシアはアメリカの原油生産者も減産に参加するようアメリカ政府と交渉している

と報道されています。 

今後

……と言うことで、一定数以上のアメリカの原油生産者がどこかで妥協してロシアとサウジアラビアに協力できさえすれば、何らかの合意が得られそうな状況ではあります。

でも減産がなかった場合どうなるのか?

まず、現状の原油価格が下がり続けば、最終的にシェールオイル生産者は生産停止せざるを得なくなります。

ロシアとサウジアラビアの原油生産コストはそれほど高くありませんが、シェールオイルは生産コストが高く、原油価格が50ドルを切ってくると赤字経営になってくるからです。

実際、Whiting Petroleumが今月の初めに破産申請しています。

IHS Markitによると、このままではいずれにせよ年末までには1日あたり300万バレルの減産となり、これに伴って250万人の雇用も失われる計算になるそうです。

また、需要がない原油を各国がそれぞれ貯蔵するにしても、4月末~5月初頭にはどの国でも貯蔵容量を超えてしまう計算です。貯蔵するスペースがなくなれば生産を止めるしかなくなるので生産はストップし、原油価格はさらに暴落します。

ちなみに、トランプ氏が一時期「石油備蓄の枠がいっぱいになるまで政府が原油を買い支える」と言っていましたが、これにかかる費用は30億ドルです。

この間の経済刺激策の2兆ドルにはこの費用は含まれていなかったので、本当に実施するなら議会の承認が別途必要となります。

まとめ

いろいろ書きましたが、ぶっちゃけ根本的な問題は新型コロナ感染のせいで止まっている経済です。原油の需要が激減していることが第一の問題なわけです。

なので、アメリカ、ロシア、サウジアラビアの3国が合意してなんらかの供給制限をしても、そして貯蔵容量が満杯になる時期を遅らせることができても、経済が動き出して需要が戻ってくるまでは厳しい状況が続く可能性は大です。

でも、ざっくり背景と現状がわかっていれば、少なくとも今後の原油関連のニュースはわりとすんなり頭に入ってきて、投資判断もしやすくなるんじゃないかと思います。

まあ最終的にはどこかで収まるので大丈夫です。

This, too, shall pass. 

4月13日時点の追記

その後、こういう結果になりました。

「どうしても40万バレルの要請は受け入れることができない、10万バレルが限界」とメキシコが頑張ったので交渉が長引いていましたが、トランプ氏が「メキシコの30万バレルはアメリカが補うということでメキシコ大統領と話をつけた」と言ったので、こういう形で落ち着きました。

トランプ氏によると、メキシコが後日アメリカに返済する形なんだそう。

世界が原油減産に向かって協力していなかったら、生産コストが高いアメリカはいずれにせよ減産せざるを得なくなっていたはずです。なので、今回のトランプ氏の立ち回りは絶妙でした。

ただし、今まで以上に世界から嫌われるパターンじゃないかと思いますが。

一方、現在日々の原油需要は2,000~3,000万バレル減少していると言われています。

なので、1,000万バレル減産しても貯蔵容量の限界に達するまでの時間稼ぎにしかならないわけですが、価格競争のために増産→原油価格暴落という事態はとりあえず終わることになりました。

あとは、貯蔵容量の限界が来るまでに需要が戻ってくるか、ですね。

バフェットおじさんの株主への手紙のまとめ

世間は3連休か!とさっき気づいた今村(@saki_imamura)です、こんにちは。

フリーランスの頃から曜日や祝日は関係なかったんですが、もう完全に世間のテンポがわかんなくなってますね……。

なんにせよ、みなさんは避けられる人混みは避けて楽しい3連休にしてくださいませ。単にダラダラして体を休め、免疫力を高めておくのも悪くないかもしれません。

さて、昨日の朝、バフェットおじさんの株主への手紙が出たよ~というツイートをしました。

で、やっぱ面白いわwwwと思いつつ8割くらい読んだところで、

というツイートに気づきました。

あら……。

……てことで、ちょっと心が動いたので、バフェットおじさんの株主への手紙の内容を英語がわからない人のためにまとめておきました。

箇条書きで要点だけ書けば大したことないだろうと思ったんですが、要点じゃないけど面白いところもあって結局は要点だけに絞れませんでした。1文1文全部訳したわけじゃないですが、とにかく13ページ分あるので結構長いです。

でもせっかく書いたので読んでいってください。

GAAPの新しいルールについて

  • GAAPに従って計算すると、Berkshireの2019年の収益は814億ドルだった。内訳は営業利益が240億ドル、実現キャピタルゲインが37億ドル、純未実現キャピタルゲインが537億ドルである。
  • 純未実現キャピタルゲインの537億ドルは、2018年から導入されたGAAPの新しいルールにより計上されたものだが、去年も述べた通り、チャーリーも私もこのルールには賛同できない。
  • コロコロ変わる株価を反映させなくてはならなくなったおかげで、株価が下落した2018年のBerkshireの収益は206億ドル減少して40億ドルの計算になり、株価が上昇した2019年には537億ドル増加して814億ドルの計算になった。
  • 市場の乱高下で収益が1,900%も上昇した計算になったわけだが、「会計ランド」ではなく現実世界では、Berkshireの所有株式の時価総額は平均2,000億ドルで、それらの実在価値は年々上昇しているので、GAAP式収益ではなく営業利益で評価してもらいたい。

蓄積した内部留保のパワーについて

  • 1924年に、無名だった経済学者Edgar Lawrence Smithが「Common Stocks as Long Term Investments」という、投資業界に波紋を投げかける薄っぺらい本を出版した。もともとは「株式はインフレ期間には債券を上回るリターンを生み、債券はデフレ期間に株式を上回るリターンを生む」という仮説を証明しようと書いた本だったが、「うまく経営されている企業は利益をすべて株主に還元しないで事業に再投資するものだが、これ自体に複利効果があり、配当金とは別のリターン(キャピタルゲイン)を生む」という結論だった。
  • カーネギー、ロックフェラー、フォードなどが事業に再投資して巨額の富を築いていたのに内部保留の力が認識されていなかったのはおかしな話だが、それでも「株式というのはギャンブルや投機であり、紳士は債券を好むもの」だとされていた。
  • 今日では、内部留保の力は投資家の間でも認識されるようになり、複利に至っては子供でも理解するようになっている。
  • Berkshireでは、この力を利用するため、すでに所有している事業に再投資することを第一に考えている。
  • その次に考えるのは、1)有形資本のリターンが高い、2)経営者が有能で誠実である、3)妥当な価格で買収可能、という条件を満たす事業を買収することをである。
  • 条件を満たす事業があれば丸ごと買いたいのだが、そのような機会はあまりない。気まぐれな市場が、企業支配権には満たないがまとまった枚数の上場企業の株を買う機会をくれるだけのことの方が多い。
  • Berkshireが50%以上の株式を所有している事業の営業利益はBerkshireの営業利益に反映されるのでご覧の通りだが、50%以下の場合は配当金しか営業利益に反映されない。そのため、Berkshireが所有する株式でポジションが大きい10社の利益余剰金を以下に示しておく。
  • 各社で利益余剰金に比例したキャピタルゲインを実現できるかはわからないが、経験上、平均ではそれと同等またはそれ以上のリターンを期待できると思っている。

保険業以外の事業について

  • 企業買収というものは結婚に似ていて、喜びに溢れた結婚式に始まり、時とともに婚前の期待から外れていくものだが、まれにお互い思ってもみなかった至福にたどり着くこともある。個人的には、Berkshireの婚姻経歴は大部分においてまずまずではないかと思っている。まあ、「一体何を考えてプロポーズしたんだ?」と思う案件も一定数あったが。
  • それでも、今ではBerkshireの資本は「良」または「優良」のリターンを生む事業に投資されている。一番大活躍しているのは保険業だが、ここではまずそれ以外の事業について述べる。
  • 非保険事業で最も大きいのはBNSF RailroadとBerkshire Hathaway Energy(BHE)で、2019年の純収益は前年比+6%の合計83億ドル。
  • 次に大きいグループはClaytonHomes、International Metalworking、Lubrizol、Marmon、Precision Castpartの5社で、純収益は前年とあまり変わらず合計48億ドル。
  • その次に大きいグループは、Berkshire Hathaway Automotive、Johns Manville、NetJets、Shaw、TTIの5社で、純収益は2億ドル増の合計19億ドル。
  • 残りの非保険事業は、数多くあるが、純収益は1億ドル減の合計27億ドル。
  • 非保険事業全体では、2019年の純利益が前年比+3%で177億ドル。
  • ここで最後に1つ付け加えなくてはならないことがある。2011年に買収した、油添加剤を製造販売するLubrizolが2019年9月に火災の被害にあい、大きな損害が生じた。
  • 大部分は各種保険でカバーされることになった…のだが、実はLubrizolを保証していた大手保険会社の1社がBerkshireの子会社であった。テヘペロ(←とは書いてないけど、「聖書に『人を助ける時は見返りを期待するな』と書いてありますが、みなさまの会長はそれに従ったわけです」とかなんとか言ってジョークで流してます笑)

財産・損害(P/C)保険業について

  • 1967年にNational IndemnityとNational Fire & Marineを買収して以来、P/C保険業はBerkshireの成長を推進するエンジンとなっている。現在では、National Indemnityは純資産で見たP/C保険会社として世界トップである。
  • P/C保険事業が魅力的な理由の1つは、先に保険料を回収して後で補償金を支払うというビジネスモデルである。これにより、保険会社には自由に運用できる巨額の手持ち金が入ってくる。さらに、常時出入金があっても、手持ち金というのは大体契約数に比例して一定額を保ちつつ事業とともに成長する。以下の通りだ。
  • 巨額を一度に支払わなくてはならない状況にならないように契約が組んであるため、手持ち金が減ることがあったとしても大きく一度に減ることは決してない。また、支払金が保険料より少なければ当然利益になる。
  • P/C保険業界では手持ち金を債券で運用することが多いのだが、金利の低下に伴い、5-6%あった手持ち金のリターンが2-3%になってきている。多くの保険会社にとって金利の低下は痛手であり、格付けが低い債券に買い替えてリターンをあげようとすることもある。だが、これは危険なゲームになりかねない。その点、有り余る資金を持つBerkshireは有利で、他社には得られない投資機会を活かすこともできる。
  • アスベストの件のように大きなリスクを長期間抱えたり、ハリケーン・カトリーナのような大災害が起こる可能性は確かにあり、BerkshireのP/C会社も大きな損害を被るかもしれない。しかし、BerkshireのP/C会社の場合、他社と違って資金の枯渇につながることにならない。Berkshireはむしろ翌日には(破産した)他社をポートフォリオに加える気満々なのである。
  • 2012年の終わり頃、保険事業を率いているAjit JainがGUARD Insurance Groupという小さな会社を2.21億ドルで買収すると連絡してきた。CEOのSy Foguelの活躍も期待できるという話だった。私はGUARD InsuranceもSy Foguelも聞いたことがなかったが、この買収は大当たりで、GUARDの保険料総額は2012年から379%伸びて19億ドルになるまで成長した。

Berkshire Hathaway Energy(BHE)について

  • BHEはBerkshireの傘下に入って20周年になるので、これまでの業績をまとめておく。
  • 2000年にBHEを買収した当時、アイオワ州の個人顧客はkWhあたり平均8.8セントの電気料金を払っていたが、それ以来毎年1%以下しか値上がりしていない。これから2028年までも料金は据え置きすることになっている。一方、アイオワ州の他の大手電力会社ではBHEより61%高い電気料金で、今後はBHEより70%高い料金になることが決まっている。
  • この桁外れな差は、BHEが風力発電を大きく拡大したからである。
  • BHEは2021年にはアイオワ州で2,520万MWh風力発電できるようになる見込みだが、これはアイオワ州のBHEの顧客すべての年間需要を100%まかなえるレベルである。一方、アイオワ州内の他社では風力発電は全体の発電量の10%に満たないレベルであり、更に言えば、風力発電だけで顧客全体の年間需要をまかなえる電力会社は他にない。
  • 2000年時点では、BHEの法人顧客は農業者が主だったが、今では最大顧客の5社のうち3社がIT企業である。電気料金が低い場所を求めてアイオワ州にやってきたのではないかと思っている。
  • BerkshireはWalter Scott, Jr.およびGreg Abelと共同でBHEの株式の91%を所有しているが、BHEがBerkshireに配当を支払ったことはなく、内部留保は280億ドルになっている。電力会社は高配当なのが通例だが、我々のスタンスは「投資し続けられるならそれほど良いことはない」である。
  • 現在、BHEには時価総額1兆ドル超の電力会社でも運営できる経営陣が揃っている。そのため、Berkshireは機会があれば大手電力会社でも買収する準備がある。

投資について

  • 以下が、Berkshireが所有する株式のうち、年末時点で評価額が高かった15銘柄である。
  • 325,442,152株あるKraft Heinz Holdingは、共同出資で所有しているためここには載せていないが、Berkshireの貸借対照表にはGAAP基準で138億ドルとして計上してある。ただし、年末時点の評価額は105億ドルしかなかったことを述べておく。

  • チャーリーと私は、上記の2,480億ドルを株式市場での賭け金コレクションだとは思っていない。ウォールストリートが格下げしたから、ガイダンスを下回ったから、「今日の話題」にのぼったから等の理由で終わらせる情事ではないわけだ。
  • これらは我々が部分的に所有する企業であり、加重ベースで運営に必要とされる純有形資産の20%以上のリターンを得ている企業である。また、これらは過剰な負債なしで利益を得られる企業でもある。
  • このレベルのリターンを生み出せる、大型で、確立していて、わかりやすい事業を行っている企業というのはどのような状況下でも卓越しており、30年物の長期国債などに比べると驚くようなリターンを出すことができる。
  • 金利については、チャーリーも私も守備範囲でないのでまったくわからないが、我々の(偏見的かもしれない)見解で言うと、このトピックについて語る識者が示しているのは、未来の展望というよりこのトピックについて語りたい自分なだけなのではないか。
  • 我々が言えることは、現状の金利レベルが今後数十年に渡って続き、法人税も現状の低いレベルが続くのであれば、株式が長期的には長期国債などよりよっぽど良いリターンを生むだろうということである。ただし、いつなんどき株式市場に何かあるかはわからず、まれに半分またはそれ以上株価が下落することもあるので注意が必要である。

今後について

  • 30年前、当時80代だった友人のJoe Rosenfieldが、「死亡記事を書く時のために略歴を教えて欲しい」という忌々しい依頼の手紙を地元の新聞社から受け取った。無視していたら一ヶ月後に「至急」と書かれた封筒でまた手紙が来たそうだ。
  • チャーリーと私もずいぶん前に「至急」状態に突入している。だが、Berkshireはそれに対して100%備えているので、株主は心配しなくても大丈夫である。
  • 理由は、1)Berkshireの資本は多岐にわたる分野の事業に投資されており、全体平均で見ると魅力的なリターンを生むようになっている、2)1つの事業体にある複数の子会社事業は、重要かつ永続的な経済的優位性を生み出せるように配置してある、3)Berkshireの財務は、深刻な外部的ショックにも耐えうるように管理されている、4)有能でひたむきな経営陣がBerkshireを運営している、5)Berkshireの役員らは常に株主の利益と大企業には珍しい社風を育むことに注力しているからである。
  • この社風については、Larry CunninghamとStephanie Cubaによる新書「Margin of Trust」で詳しく書かれている。本書は株主総会でも販売される予定である。
  • チャーリーも私も、我々が亡き後もBerkshireには繁栄して欲しいと願っている。というのも、マンガー家のポートフォリオではBerkshireのポジションが他のどの投資先よりも大きく、私自身も純資産の99%がBerkshire株だからである。
  • 私はBerkshireの株を売却したことは一度もなく、今後も売却する気は一切ない。遺書にも、Berkshireの株は一切売却しないよう、そして売却しないことに伴う執行者の責任を一切免除するように書き残してある。
  • 毎年一部のBerkshire-A株がB株に置き換えられ、そのB株が様々な財団に分配され、それを財団が速やかに換金して助成金として給付する仕組みになっている。そのため、私のBerkshire株すべてが市場に出回るのには12~15年かかると推定している。
  • すべて売却してそれで短期国債を買っておくのが一番安全かもしれないが、Berkshire株をこの期間そのまま保有しておいても安全であり、見返りも大きいはずだと自負している。

取締役会役員について

  • 過去62年に渡り、私は21の上場企業で取締役会役員を務めてきた。
  • 最初の30年間は取締役会に女性役員がいることはほとんどなかった。そして、憲法修正第19条が成立してから100周年になるが、今でもまだまだ改善の余地がある状態だ。
  • 長年に渡って、取締役会の構成や義務について様々なルールやガイドラインが導入されてきたが、本質的な課題が才能があり誠実でひたむきな人材を見つけることだという点は変わらない。
  • 監査委員会が以前に増して目を光らすようになってきているが、財務表を操作してガイダンスや指標に合わせようとするCEOがいる場合はどうにもならない。
  • 報酬委員会がコンサルタントに頼るケースも増えており、報酬内容も以前より複雑になっている。
  • 1つ、とても重要なガバナンスの改善として、定期的にCEOを除いた役員会議を行うことの義務付けがあった。それまではCEOのスキル、買収判断、報酬などについて率直に語る機会がなかった。
  • CEOの買収判断は取締役会にとっては依然厄介な問題となっているが、それはCEOが反対派の批評を積極的に検討しないからだ。まあ私も人のことを言えないが。
  • とにかく、全体としてはCEOがやりたいようにやれる環境なので、買収の専門家を雇ってメリット・デメリットを取締役会で議論できるようにすると良いのではないか。昔から言うではないか、「ヘアカットが必要かどうかを理髪師に聞くな」と。
  • 役員の独立性が重要視されるようになってきているが、これに関する点で見過ごされがちなことがある。役員の報酬だ。年に6回ほど取締役会の会議に出席するだけで25~30万ドルの報酬を受け取っている役員を想像してみて欲しい。この地位があるだけで一般市民の平均収入の3~4倍稼げるわけである。
  • ちなみに、私が1990年代初頭にPortland Gas and Lightで役員をしていた当時は、メイン州まで年に4回通って100ドルの報酬だった。
  • また、役員は目立たないが、解雇されることは滅多にない。
  • となると、役員を兼任して報酬を増やしたい人が出てくるわけで、CEOにたてついたことがないという経歴のある候補者が有利になってくるわけである。
  • このような非論理的な状況にもかかわらず、これらの役員は「独立派役員」とされる。
  • 最近、とあるアメリカ企業のプロキシを読んでいたら、役員の8名が自己資金でその企業の株を買っていなかった。この企業は長い間低迷しているが、役員らは裕福にやっているようだ。自己資金で株を買うことで役員が賢明になるわけでも事業が先端を行くわけでもないが、個人的には自分で株を買っている役員がいる方が安心できると思っている。

その他諸々について

  • 自社株買いについてのチャーリーと私の考え方は、1)Berkshireが割安になっている、2)自社株買いをしても現金がたくさん残る、という場合のみ行う、である。本来の価値というのは数値化しにくい。そのため、チャーリーも私も「推定1ドルの価値が95セント」というレベルでは食指が動かない。
  • 2019年にはまあまあ割安な時期もあったため、50億ドルでBerkshire株の約1%を買い戻している。
  • 長期的には、Berkshireの株数を減らしたいと思っているため、割安になれば買い戻しする。一方、株価を支えるために買うことはしない。
  • 最低2,000万ドル分のBerkshire株を所有する株主で売却を希望する人は、BerkshireのMark Millardに連絡して欲しい。電話番号は404-346-1400だ。
  • 2019年にBerkshireがアメリカ政府に納税した額は36億ドルである。アメリカ政府が回収した税金は2,430億ドルなので、1.5%をあなたの会社Berkshireが担ったということだ。誇りに思って良い。
  • 2020年5月2日に開催される株主総会についての詳細はページA-2~A-3にある。Yahoo!が例年通りストリーミング配信を行う。
  • 1つ重要な変更がある。Ajit JainとGreg Abelも株主総会で登壇させて欲しいという要望があちこちからあった。納得できる要望である。今回は、レポーターたちに質問を送る際に、Ajit宛かGreg宛か指定できるようにする。
  • 5月2日には是非オマハに来ていただきたい。

まとめの終わり

てことで、結構時間かけて書き出しましたが、うーん、バフェットおじさんの口調というか、語りの良さはこういう箇条書きではあんまりわかんないですね……。

バフェットおじさんの株主への手紙は、おじさんが高齢ということもあるのかもしれないし、大御所になっちゃってるからかもしれないけど、わかりやすく言って聞かせてる感があると言うか、小難しい言い方をしないので、他のCEOの株主への手紙と比べても読みやすいです。

なので、「こういう時につくづく英語ができてればと思う」のなら、これをきっかけに原文読んじゃうのもいいかもしれないですね。特に、ここまで読んでくれた人はすでに内容がわかっている状態で読めるので、あたしがここでは盛り込めきれなかったニュアンスとかも感じられるかもしれません。

ではでは~。

Visa($V)がPlaidを買収するという話のまとめ

去年は1ヶ月に1本のペースでしかブログを書いてなかったのに、なぜか今年はもう2本目を書こうとしている今村です、こんにちは。

しかも投資家っぽい記事(笑)

いや、なんでって、今朝、VisaがPlaidを買収するっていうニュースをツイートしたんですが、

そのあと、VisaとPlaidの買収発表のウェブキャストを聞きながらプレゼンを見ていたら、このツイートをイイねしたりリツイートしたりしてくれてる人が結構いたんですよね。

てことは、ウェブキャストとプレゼンにもみなさんきっと興味あるんだろうなぁと思ったので、ついでだし、ざっくりまとめて出しておきます。

 

2021年1月13日追記:

DoJに訴訟されて結局VisaはPlaid買収を諦めることになりました。

www.cnbc.com

Plaidのビジネス

Plaidはサンフランシスコを拠点とするフィンテック企業です。

VenmoやCoinbaseなどのフィンテックアプリを個人の銀行、クレジットカード、証券などの金融口座と繋げるシステムをフィンテックや金融機関のアプリ開発者に提供しています。

以下、プレゼンに出ていた関係図↓

出典:Visa Inc. To Acquire Plaid Presentation(PDFが開きます)

現在、

  • 11,000以上の金融機関やデータ元と提携して個人の銀行口座、クレカ、証券口座などのデータへのリンクを確保し、
  • それを簡単にアプリやサービスに組み込めるように、2,600以上のフィンテック企業や金融機関に開発者キットを提供し、
  • 結果として、2万以上のユーザーがPlaidが使用されたアプリやサービスを利用している

という状態になっています。

アメリカの銀行口座所有者で言うと、4人に1人がPlaidに間接的にお世話になっている計算だそうです。

Plaidのポテンシャル

フィンテック市場自体のポテンシャル

様々なフィンテック企業を相手にビジネスしているPlaidのポテンシャルの前振りとして、フィンテック市場自体のポテンシャルにも少し触れていました。

  • 2014年時点で31億人だったインターネットを利用できる消費者数は2019年には45億人となっているが、世界人口の割合で見るとまだ59%
  • インターネットを利用できる消費者でフィンテック系のアプリを1つでも使っている人の割合が2015年時点では18%だったのが2019年時点では75%まで伸びている
  • 新しいフィンテックサービスがどんどん生まれてユーザー数を増やしている

出典:Visa Inc. To Acquire Plaid Presentation(PDFが開きます)

Plaidの今までの成長実績

Plaid自体の今までの成長はユーザー(=フィンテックアプリ経由でPlaidを利用しているユーザー)数で示されていました。

出典:Visa Inc. To Acquire Plaid Presentation(PDFが開きます)

Plaidはフィンテック企業や金融機関にキットを提供してライセンス料も得ていますが、大半の収入は個人データへのリンクの提供自体で得ているので、収益はユーザー数に比例するそうです。

キットを使うクライアントが一定でも、クライアントのユーザーが増えれば収益は増えるということですね。

Plaidのこれからの成長伸びしろ

Plaidは現在アメリカ、カナダ、イギリス、アイルランドで事業展開しているだけなので、世界的に市場を見た場合、どの分野をとってもマーケットシェアは1桁台です。

でも、世界的にネットワークがあるVisaに買収されることで世界進出のさらなる加速が期待できるとのこと。

*TAM=Total Addressable Marketで、想定される市場サイズです。

出典:Visa Inc. To Acquire Plaid Presentation(PDFが開きます)

Visaの狙い

今村は知らなかったんですが、Visaはここ数年Plaidに注目していて、7ヶ月前に出資もしていたそうです。で、この7ヶ月間は出資者の立場を利用して内部からPlaidを観察し、その結果買収のオファーを出すことにしたんだそう。

Visa側は、そもそもPlaidはVisaがいてもいなくても成長が期待できる企業だと強調していました。でも、上で述べたように、PlaidはVisaの海外ネットワークを足がかりすれば事業展開をさらに加速させることができるということです。

一方、Visa側としての狙いは

  1. PayPalやJP Morgan Chaseのように既にVisaともPlaidとも提携しているパートナーとの関係を一元化して強化する
  2. Visaの様々な決済サービスをPlaidのクライアントに提供する
  3. VisaのサービスにPlaidのサービスも加えて新たな提携先に提案する
  4. データ管理ソリューションを提供する

の4つを通して「ネットワークのネットワーク」というVisaの戦略ポジションを強化していくことだそうです。

これにより、具体的には

  1. アメリカ国内でのデータネットワーク事業
  2. 海外でのPlaidの事業拡大
  3. 2に伴う、海外のフィンテック企業の間でのVisaの決済サービス事業の拡大
  4. Plaidを加えた主要事業の強化

の4方向から収益アップを図るとのことでした。

見通し

規制当局の承認などプロセス的な問題がなければ、Plaidの買収は3~6ヶ月で完了する見込みです。

Plaidは、Jack Forestell氏が率いるVisaの商品部門の一部となり、現CEOのZach Perret氏が引き続きPlaidを率いることになります。

買収は3~6ヶ月で完了の見込みですが、4月1日時点で完了した場合、2020年度のVisaの収益は30ベーシスポイントほど上がる見込みで、2021年度は80~100ベーシスポイント上がる見込みだそうです。

まとめ

ウェブキャストの最後にあったQ&Aでは、

  • 収益が上がるという話は決して一時的・短期的なことではない
  • Plaidはそのままでも成長を見込めるビジネスであるが、Visaがその成長を大きく後押しできる
  • 海外送金やB2B送金でも大きなチャンスがあると見ている
  • フィンテック企業相手のビジネスはVisaでもまだまだ少なく、そういう意味でもPlaidを買収した意義がある

などのコメントをしていました。

……ということで、なるほどなるほどの戦略でした。あとは遂行力ですかね。

 

あ、ちなみに、今朝こんなツイートもしたんですが、

一番下にあったインタビューを見てみたら、まだDennis Muilenburg氏がCEOでDave Calhoun氏が会長だったときのもので、全然面白くなかったということをついでに報告しておきます。紛らわしいよ、CNBC。